卸売・商社で時間が消えている4か所
卸売業や商社の仕事は、外から見ると「仕入れて売る」というひとことで説明されがちですが、実際に人の時間を食っているのはその手前と後ろにある事務作業です。多くの会社で共通しているのは、次の4か所です。
- 仕入価格表の取り込み:仕入先ごとにファイルの形式も列の並びも品番の書き方も違い、届くたびに手元の型へ打ち直している
- 見積の値決め:客先から引き合いが来るたび、その品目を前回いくらで出したか、いまの仕入がいくらかを探すところから始まる
- 受発注の突き合わせ:受けた数、発注した数、入ってきた数が別々の場所に記録されていて、ずれに気づくのは客先から催促が来たとき
- 在庫と発注の見張り:動きの速い品目が切れそうなことに誰も気づかず、逆に動かない在庫は倉庫に残り続ける
この4つに共通しているのは、どれも高度な判断ではなく「情報があちこちに散らばっているせいで、人が集めて並べ直している」という構造だという点です。判断そのものは人がやるとしても、集めて並べるところまでは道具に任せられます。そして、この種の道具は基幹システムの改修を待たなくても、現場の担当者が自分で用意できるところまで来ています。Claude Codeがどんなツールかをまだご存じない方は、こちらの入門記事から読むと以降の話がつかみやすくなります。
仕入先ごとにばらばらな価格表を1つの形に揃える
卸売の現場でもっとも根深いのが、仕入価格表の形式がそろわない問題です。ある仕入先は表計算ファイルで送ってくる、別の仕入先はPDFの一覧、また別の仕入先はメールの本文に品番と単価を並べてくる。列の名前も「品番」「商品コード」「型式」とばらばらで、同じ商品が仕入先によって違う品番で呼ばれていることさえあります。
ここで内製の効果が出るのは、形式の違いを吸収して自社の型に流し込むという一点に絞ったときです。仕入先ごとに「このファイルのこの列が品番、この列が単価」という対応の決まりを一度書いておけば、次回からは届いたファイルを渡すだけで自社の型に並んだ一覧が出てきます。あわせて、前回の価格表との差分——値上がりした品目、値下がりした品目、今回から消えた品目、新しく載った品目——を出しておくと、価格表が届いた日にやるべき確認が一目でわかります。
品番の呼び方が仕入先ごとに違う件については、自社の品番と仕入先の品番を紐づける対応表を自分たちで持つのが結局は近道です。この対応表さえ育っていけば、複数の仕入先の価格を同じ商品の行に並べて比べられるようになります。具体的な作り方は仕入先の価格表を一元管理するツールの内製手順で扱っています。
見積の値決めを毎回ゼロから調べ直さない
客先から引き合いが来たとき、営業が最初にやるのは「この品目、前はいくらで出したか」を探すことです。過去の見積ファイルを開き、担当者に聞き、それでも見つからなければ勘で決める。この探す時間が、実は見積作成でいちばん長い工程になっている会社は少なくありません。
ここでツールに任せられるのは、値決めの材料を1画面にそろえるところまでです。品番を入れたら、その商品の現在の仕入単価、直近でその客先に出した見積の単価、他の客先に出した単価の幅、といった材料が並ぶ。値決めそのものは、客先との関係や今後の取引量を見て人が決めます。材料をそろえるのに20分かかっていたのが1分になれば、それだけで見積の回転は変わります。
そのうえで、決めた数字を見積書の形に流し込む部分も道具にできます。品目・数量・単価・納期を入れれば、自社の様式の見積書ができあがる。ここは見積書を自動作成するツールの作り方で手順を追って解説しています。仕入価格の変動を追いかけたい場合は競合や仕入先の価格を定点で見張るツールも組み合わせられます。
受注と発注と入荷を突き合わせる
卸売の事故がいちばん起きやすいのが、ここです。客先から10個受注し、仕入先に10個発注したつもりが、実際には8個しか発注できていなかった。あるいは発注は通っていたが入荷が5個で止まっていた。こうしたずれは、受注の記録・発注の記録・入荷の記録がそれぞれ別のファイルや別の画面にあり、誰も突き合わせていないから起きます。
内製するなら、まずは受注番号を軸に、受けた数・発注した数・入ってきた数・客先に出した数を1行に並べるだけの身軽なものから始めるのが確実です。項目を増やしすぎると入力が続かず、続かない台帳は数字が合わなくなって使われなくなります。並べたうえで、数が合っていない行、発注がまだ入っていない受注、納期を過ぎても入荷していない発注、といった抜き出しを毎朝出す。これだけで、客先から催促が来る前に気づける件数がはっきり変わります。
受発注の台帳そのものの作り方は受注から納品までの進み具合を管理するツールの内製手順で、仕入先からの請求と発注内容の突き合わせは請求書と発注データを照合するツールの作り方で扱っています。仕入側の交渉や仕入先の評価まで含めた話は購買・調達部門の生成AI活用にまとめました。
在庫の動きから発注のタイミングを見張る
在庫は、多すぎても少なすぎても損が出ます。切らせば客先を待たせ、場合によっては他社に取られます。持ちすぎれば倉庫代と資金が寝ます。それでも多くの会社で「感覚で発注している」状態が続くのは、在庫の数そのものは見えていても、それが何日分にあたるのかが見えていないからです。
ここで作れるのは、直近の出荷の実績から品目ごとの動きの速さを出し、いまの在庫がおおよそ何日分にあたるかを並べて、少なくなってきた品目を知らせる仕組みです。仕入先ごとの調達にかかる期間を自社で控えておけば、「そろそろ発注しないと間に合わない」品目を先に出せます。反対に、長く動いていない品目を抜き出しておくと、値引きして流すか仕入をやめるかの判断材料になります。
ここで大事なのは、発注そのものを自動で出さないことです。季節の要因、客先の特別な予定、仕入先の都合など、数字に出てこない事情は必ずあります。ツールは「見張って知らせる」ところまで、発注するかどうかは人が決める。この線引きを最初に決めておくと、現場が安心して使えるものになります。作り方は在庫が減ったら知らせるツールの内製手順で解説しています。
機械に渡してはいけない判断の線引き
卸売・商社の仕事には、ツールに渡してはいけない部分がはっきりあります。導入の前にここを決めておかないと、あとで大きな手戻りになります。
第一に、値決めと与信の判断です。どの客先にいくらで出すか、どこまで掛けで売るかは、取引全体の関係と回収の見通しを踏まえた経営判断です。ツールが出すのは過去の実績と現在の仕入という材料までで、決めるのは人です。
第二に、取引に関わる法令や契約の判断です。取り扱う品目によっては許認可や届出が要りますし、輸出入が絡めば該非の判定など専門の確認が必要な領域があります。下請取引にあたる場合の書面や支払いの扱いも同様です。これらは制度の内容が改正されることもあるため、必ず一次情報と専門家に確認してください。ツールは期限や書類の有無を見張るところまでに留めるのが安全です。
第三に、仕入先や客先との関係そのものです。数字だけを見れば切るべきに見える取引が、供給の安定や将来の商流のために続けるべきものである場合は珍しくありません。ツールが出した順位をそのまま実行しないという前提を、使う側が共有しておく必要があります。
営業事務が自分で作り始める進め方
「作れると言われても、プログラムを書いたことがない」という方がほとんどだと思います。実際のところ、いま非エンジニアが最初に越えるべきなのはプログラミングの壁ではなく、自分の困りごとを言葉で正確に説明するという壁です。Claude Codeのようなツールは、日本語で「こういうファイルがあって、こう並べ替えて、こういう条件のものを抜き出したい」と伝えれば、その通りに動くものを組み立ててくれます。
進め方としては、次の順番をおすすめしています。
- ひとつの仕入先、ひとつの表から始める:全社の全品目を一気に扱おうとすると必ず途中で止まります。いちばん頻度が高い仕入先の価格表ひとつを、自社の型に流し込むところだけを作る
- いま使っているファイルをそのまま材料にする:新しい入力の型を現場に押しつけると使われません。すでに毎日開いているファイルを読ませて、出力だけを増やす形にする
- 毎朝の抜き出しから価値を出す:作ったその日から効くのは、たいてい「今日確認すべきものだけを並べる」機能です。凝った画面より先にここを作る
- 動いたら現場に見せて、次を決める:机上で仕様を固めるより、動くものを1つ見せたほうが「じゃあこれも」という次の要望が具体的に出てきます
この進め方を、自社の実際の業務を題材にして数日で一巡させるのが、AI CODEMYの研修の中身です。研修としての実施には人材開発支援助成金が使える場合があります。制度の要件や助成の内容は改正されることがあるため、生成AI研修に使える助成金の解説記事とIT導入補助金と研修の関係を確認のうえ、最新の情報は必ず所管の窓口でご確認ください。
まとめ:つなぎ合わせる作業から手を離す
本記事の要点を整理します。
- 卸売・商社で人の時間を食っているのは、仕入価格表の取り込み・見積の値決め・受発注の突き合わせ・在庫の見張りという4つの「つなぎ合わせる作業」
- 価格表は形式の違いを吸収して自社の型に流し込み、前回との差分を出すところまでを道具にできる
- 見積は値決めの材料を1画面にそろえるところまでを任せ、決めるのは人が持つ
- 受発注は受注番号を軸に数を1行に並べ、合っていない行を毎朝抜き出すだけで事故が減る
- 在庫は「何日分あるか」を出して知らせるところまで。発注するかどうかは人が決める
- 値決め・与信・法令や契約の判断・取引先との関係は人と専門家が持つ。ツールは見張りと下ごしらえに徹する
- 始め方は、ひとつの仕入先・ひとつの表・毎朝の抜き出しから。全社展開はそのあと
卸売業や商社は、扱う情報の量が多いぶん、道具を1つ作ったときの効き目がはっきり出る業種です。そして、その道具をいちばんうまく作れるのは、どの数字がどこにあってどこがずれやすいかを知っている現場の担当者です。外注して仕様書を書くより、自分たちで小さく作って育てるほうが速く、そして安く済む段階に来ています。
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無料相談(30分)本記事の業務の切り分けは、卸売・商社の一般的な業務の流れをもとにした整理です。許認可・輸出入・下請取引などの制度の内容は改正されることがあります。適用の可否は必ず一次情報と所管の窓口、および専門家にご確認ください。助成金の要件・助成率も同様です。


