なぜ購買・調達こそ「使う」より「作る」なのか
購買・調達の現場で生成AIを使う、と聞いてまず思い浮かぶのは、チャットに取引先への交渉メールの下書きや、依頼文の言い回しをつくってもらう使い方でしょう。それも有用ですが、毎回チャットに貼り付けて、出てきた結果を手でシートやメールに戻して——という手間が残り、見積の比較や発注書づくりそのものは手作業のまま変わりません。
本記事の主語は「使う」ではなく「作る」です。複数の仕入先の見積を決まった比較表にそろえる、過去の発注をもとに新しい発注書のたたき台を作る、取引先ごとのやり取りを一つのメモにまとめる、といった決まった作業を、毎回手で頼むのではなく現場の小さなツールにしてしまう。すると、その作業は決まった操作ひとつで終わるようになります。購買・調達の業務は「発注先や価格の最終判断は人が担うが、その周りの集計・作成・整理の手間が大きい」という構造をしているため、判断はそのまま人が担い、手間だけをツールに寄せる余地が特に大きいのです。
ここで鍵になるのがClaude Codeです。Claude Codeは、やりたいことを日本語で伝えると、プログラムの作成から実行までを対話で進めてくれるAIで、コードを一行も書かなくても、対話だけで動くツールを組み立てられます。だからこそ、購買・調達の仕事の作法をいちばん分かっている担当者自身が作り手になれます。外注してシステムに仕様を伝えるより、現場の言葉でそのまま作るほうが、自社の見積様式や発注フローに合った道具ができあがります。バックオフィス全体でのAIの使いどころはバックオフィスのClaude Code活用を俯瞰する記事でも整理しているので、本記事の「作り方ハンズオン」とあわせてご覧ください。会社としてツールを内製する考え方の全体像はAIの内製化を進める記事でも扱っています。
ツール化しやすい購買・調達の業務
購買・調達の現場で、非エンジニアがツール化しやすい業務には次のようなものがあります。いずれも「判断は人がするが、集計・作成・整理の手間が大きい」作業です。
- 見積比較表の作成:複数の仕入先から届いた見積を、品目・単価・数量・納期・支払条件が一目でそろう比較表にまとめる。どこに発注するかの判断は担当者が行い、機械は比較表づくりの手間を担います。
- 発注書ドラフトの作成:過去の発注や決まった様式をもとに、品目・数量・納期を差し替えた発注書のたたき台を作る。金額や条件の最終確認は人が行い、機械は書き起こしの下ごしらえに使います。
- 取引先メモの整理:仕入先ごとのやり取り・納期の実績・トラブルの経緯を、メールや記録から拾って一つのメモに整える。取引の評価や与信の判断そのものは人が引き取ります。
- 納期・在庫アラート:発注済みの品目の納期や在庫の水準を見て、そろそろ発注・確認が必要なものを洗い出す。手で台帳を突き合わせていた手間を減らします。
共通するのは、「様式や項目は決まっているのに、毎回そろえ直す・作り直す・拾い集める手間がかかる」点です。こうした定型作業はClaude Codeでの自動化がよく効く領域です。見積書づくりそのものは見積書ジェネレータを作る手順で、在庫や納期の見張りは在庫アラートツールを作る手順で詳しく解説しています。
5日で内製する進め方
「購買・調達担当がツールを作る」と言われても、想像しづらいかもしれません。実際の進め方は、おおむね次の5日間の流れになります。これはAI CODEMYの研修で受講者が自分の業務ツールを完成させるときの組み立て方そのものです。
1日目:自分の困りごとを言葉にする。「どの集計や作成に、いつも何分とられているか」を棚卸しし、ツールにしたい1本を決めます。たとえば「相見積を取るたびに、各社の見積書から単価と納期を拾って比較表に並べ直すのに時間がかかる」。ここで問われるのはプログラミングの知識ではなく、自分の業務を言葉にする力です。
2日目:ダミーデータを用意して、たたき台を作る。本物の取引先名や価格はそのまま使わず、まずは差し替えたダミーの情報を用意します。そのうえでClaude Codeに作りたいものを伝え、最初の動くたたき台を出させます。一度で完璧を狙わず、動かしながら直す前提です。
3日目:自社の様式に合わせて直す。ダミーで動かし、「この項目も比較表に入れて」「発注書の並び順は当社の様式に合わせて」と日本語で調整します。やり取りを繰り返して、自分の会社の作法にツールを寄せていきます。
4日目:同僚に見てもらい、運用の形を決める。同じ業務をするチームの同僚に試してもらい、誰がいつ使うか、出力をどこに保存するかといった運用の段取りを固めます。比較表や発注書ドラフトを人がどう確認してから使うかも、ここで決めます。
5日目:ルールを確認して、本番運用へ。実データを扱う前に、会社の情報の取り扱いルール(取引先の価格や条件など、クラウドに何を送ってよいか)を必ず確認し、扱う範囲を決めたうえで日々の業務に組み込みます。非エンジニアが最初の1本を組み立てる全体の進め方はClaude Codeで業務ツールを作る5ステップで詳しく解説しています。
指示の具体例
2日目にClaude Codeへ出す指示は、たとえば次のようなものです。見積比較表の作成ツールを想定しています。
「このフォルダにある各社の見積書(テキスト)を読み込んで、当社の比較表の様式に沿った一覧にまとめてほしい。列は『仕入先・品目・単価・数量・納期・支払条件』の順に並べて。見積書に書かれていない項目は空欄のままにし、推測で埋めないこと。どこが安い・おすすめといった判断は書かず、書かれている条件を事実として転記するだけにして」
このように、「何を読み取り」「どんな形に整え」「やってはいけないこと(書かれていない項目を推測で埋めない・おすすめの判断を書かない)」まで具体的に書くのがコツです。あいまいな指示ほど結果がぶれます。逆に、ここを丁寧に言葉にできれば、自社の様式や比較の作法をそのままツールに落とし込めます。特に購買・調達では「見積にない条件を補完しない」「発注先の良し悪しの判断はツールに書かせず人に返す」という指示が重要で、AIが単価や納期を勝手に補ったり発注先を推してしまうと、比較の前提が崩れて判断を誤るため、補完と断定を禁じる一文を必ず添えます。指示の組み立て方そのものは業務で使えるプロンプトの書き方が参考になります。
情報の取り扱いの注意点
購買・調達でツールを使ううえで、丁寧に押さえたい注意点があります。
第一に、取引先の価格や条件はそのままクラウドに送らない。仕入単価・見積条件・取引先との個別の取り決めは、社外に出ると不利益になりうる情報です。ツールを作る段階ではダミーデータだけを使い、本番でも何をクラウドのAIに送ってよいかは必ず会社のルールに従います。判断に迷う情報は入力しないのが安全です。AIに入れてはいけない情報の具体的な考え方は生成AIに入力してはいけない情報リストにまとめています。
第二に、発注先・価格の判断はツールに任せない。どこにいくらで発注するか、取引先を続けるかどうかは、購買・調達が責任を負って行うもので、AIが置き換えるものではありません。ツールにできるのは見積を比較表にそろえる、発注書のたたき台を作る、やり取りをメモに整えるまでで、その先の選定・交渉・意思決定は必ず人が行います。ツールが出した比較表や発注書ドラフトはあくまで下書きであり、金額や条件が正しいか、様式や事実と合っているかの最終確認は担当者が行う前提で運用します。特に相見積の比較に機械の推測を持ち込むと、単価や納期の取り違えが判断の誤りに直結するため、判断は人に返す設計を徹底します。
第三に、情報漏えいを起こさない仕組みを先に決める。「どのツールに何を入力してよいか」を担当者任せにすると、思わぬ持ち出しが起こりえます。入力してよい情報の範囲や、使ってよいツールをあらかじめ会社で定めておく必要があります。組織として情報漏えいを防ぐ進め方は生成AIの情報漏えいを防ぐ記事で詳しく解説しています。取引先の機微な条件を多く扱う購買・調達だからこそ、便利さより先に「入れてよい情報の線引き」を決めるのが出発点です。
研修・助成金で始める
「会社がツールを内製する」と言っても、最初のきっかけは独学では作りにくいものです。AI CODEMYは、5日間で受講者が自分の業務課題を解決するツールを完成させる法人向け実践研修で、購買・調達のように特定の集計・作成業務を題材にした研修も可能です。経理まわりの内製の広げ方を知りたい方は経理のClaude Code活用もあわせてご覧ください。
費用面では、人材育成や業務改善を対象とした国の助成金を活用できる場合があります。どの制度がいくらの助成率で使えるかは、対象の要件や年度によって変わるため、厚生労働省などの公表資料を要確認です。AI CODEMYでは活用しやすい制度の整理から相談に乗っています。AI研修に使える助成金の解説に概要をまとめているので、まずはこちらをご覧ください。
まとめ:集める・そろえる・書き起こす手間を自社の道具に変える
本記事の要点を整理します。
- 購買・調達の生成AI活用は「使う」だけでなく、担当者自身が見積比較表・発注書ドラフト・取引先メモのツールを「作る」段階まで広がる
- ツール化しやすいのは、見積の比較表化・発注書のたたき台作成・取引先メモの整理など、判断は人がするが集計・作成・整理の手間が大きい作業
- 困りごとを言葉にし、ダミーデータで作り、動かしながら自社の様式に合わせていく5日間の進め方で本番運用に届く
- 取引先の価格・条件は入力範囲を会社で定め、発注先・価格の判断は必ず人が行う
集計と作成の手間のツール化は、購買・調達が価格や取引先の見極めに向き合う時間を取り戻す、効果の見えやすい一歩です。ツールに「そろえる手間」を任せ、人は判断と交渉に集中する——それが、購買・調達に無理のない生成AI活用の形です。
購買・調達の集計・作成作業を自分たちで自動化したい方へ
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