請求書照合のどこが大変か
請求書の照合作業は、一見すると単純な「見比べ」です。しかし実務では、次のような事情が重なって手間がかかります。
- フォーマットがばらばら:取引先ごとに請求書の体裁が違い、金額や明細の位置も一定しません。
- 突き合わせ先が複数:発注書、見積、支払予定表、過去の請求履歴など、照らし合わせる対象が分かれています。
- 見つけたい異常が地味:「単価が見積と1円違う」「先月と同じ請求が二重で来ている」といった、目視では見落としやすい差を探す必要があります。
つまり、判断そのものは難しくないのに、量と細かさで消耗する作業です。こうした「ルールは決まっているが手作業が多い」業務は、Claude Codeでの自動化がよく効く領域です。経理全体でどんな業務が自動化できるかは経理業務をClaude Codeで自動化する記事でも整理しています。
作るツールの全体像
今回作るのは、次の3つを順番に行うツールです。
- ① 読み取り(OCR):PDFや画像で届いた請求書から、取引先名・請求番号・日付・明細・金額といった項目を抜き出します。OCRとは、画像化された文字をデータとして読み取る技術のことです。
- ② 突合:読み取った内容を、自社の発注データや支払予定の一覧(ExcelやCSV)と突き合わせます。
- ③ 不一致の抽出:金額の相違、発注の見当たらない請求、二重請求の疑いなどを、理由つきで一覧に出します。
ポイントは、ツールに「最終判断」をさせないことです。ツールの役割は、人が確認すべき怪しい請求を絞り込むところまで。最後にOKを出すのは経理担当者です。この線引きが、安心して使える自動化の鍵になります。
作り方:5つのステップ
Claude Codeは、やりたいことを日本語で伝えると、プログラムの作成から実行までを対話で進めてくれるAIです。実際の作り方は、次の流れになります。
ステップ1:突合のルールを言葉にする。まず「何と何を、どの項目で突き合わせるか」を決めます。たとえば「請求書の取引先名と発注データの取引先名が一致し、合計金額が発注額と同じか」。ここが設計のいちばん大事な部分で、プログラミングの知識ではなく自社の経理ルールを言葉にする力が問われます。
ステップ2:サンプルを用意する。本物の取引先情報は使わず、まずはダミーの請求書を数枚と、それに対応するダミーの発注一覧を用意します。社外秘の情報をいきなり扱わないのが鉄則です。
ステップ3:Claude Codeに作りたいものを伝える。次の章のような指示を出し、読み取り→突合→不一致抽出を行うツールを作らせます。一度で完璧を狙わず、動かしながら直していきます。
ステップ4:試して、ずれを言葉で直す。ダミーで動かし、「この不一致は拾わなくていい」「この項目も照合に加えて」と日本語で調整します。Claude Codeとのやり取りを繰り返して、自社の基準に合わせていきます。
ステップ5:本番データは権限を確認してから。実データを扱う前に、会社の情報の取り扱いルール(クラウドに何を送ってよいか)を必ず確認します。最初の1本を組み立てる全体の進め方はClaude Codeで業務ツールを作る5ステップで詳しく解説しています。
指示の具体例
ステップ3で出す指示は、たとえば次のようなものです。
「このフォルダにあるPDFの請求書を読み取って、取引先名・請求番号・請求日・各明細・合計金額を抜き出してほしい。次に、同じフォルダの発注一覧(order.csv)と突き合わせて、(1)発注一覧に取引先が見つからない請求、(2)合計金額が発注額と違う請求、(3)同じ取引先・同じ金額が今月すでにある二重請求の疑い、の3種類を、理由つきで一覧(result.csv)に出して。判断に迷うものは『要確認』として残して」
このように、「何を読み取り」「何と照合し」「どんな異常を、どう出力するか」を具体的に書くのがコツです。あいまいな指示ほど結果がぶれます。逆に、ここを丁寧に言葉にできれば、経理の判断基準をそのままツールに落とし込めます。指示の組み立て方そのものは業務で使えるプロンプトの書き方も参考になります。
似た発想で作れるのが、経費精算のチェックツールです。領収書や申請内容を社内規程と突き合わせる仕組みは経費精算のAIチェックツールを作る手順で解説しているので、あわせてご覧ください。
精度と運用の注意点
実務で使ううえで、押さえておきたい注意点が3つあります。
第一に、金額は最終的に人が確認する。OCRの読み取りは万能ではなく、かすれた数字や独特の書式では誤読が起こり得ます。ツールが出した「一致」をうのみにせず、最終確認は人が行う運用にします。ツールはあくまで、確認すべき件数を大きく減らす道具です。
第二に、扱う情報の範囲を決める。請求書には取引先名や口座情報など、慎重に扱うべき情報が含まれます。何をクラウドのAIに送ってよいかは会社のルールに従い、判断に迷う情報は入力しないのが安全です。AIに入れてはいけない情報の考え方は生成AIに入力してはいけない情報リストにまとめています。
第三に、まず小さく始める。いきなり全取引先を対象にせず、件数の多い数社や、間違いが起きやすい取引から試すと、効果と注意点の両方が早くつかめます。うまくいけば対象を広げ、定例の照合作業に組み込んでいきます。
まとめ:照合の「絞り込み」を任せ、判断に集中する
本記事の要点を整理します。
- 請求書照合は、判断は難しくないが量と細かさで消耗する作業で、自動化が効きやすい
- 作るのは「読み取り(OCR)→既存データと突合→不一致を理由つきで抽出」の3ステップのツール
- 突合ルールを言葉にし、ダミーデータで作り、動かしながら日本語で直していく
- 金額の最終確認は人が行い、扱う情報の範囲を決め、小さく始める
請求書照合のツール化は、経理が毎月確実に消費している時間を取り戻す、効果の見えやすい一本です。ツールに「怪しい請求の絞り込み」を任せ、人は判断とコミュニケーションに集中する——それが、無理のないAI活用の形です。
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