なぜ「今いくらか」に即答できなくなるのか
仕入の単価そのものは、どの会社もきちんと管理しているつもりでいます。実際、最初に取引を始めたときの単価表は、たいていファイルに綴じられています。おかしくなるのは、そこから先です。単価は一度決めたら固定されるものではなく、原材料の値動き、輸送費、為替、取引数量の変化といった理由で、期の途中でも改定されます。そして改定の連絡は、単価表という形で整った状態では来ません。「◯月出荷分より下記のとおり改定させていただきます」という一通のメールで届き、対象は数ある品目のうち三つだけ、ということのほうが普通です。
この一通が届いた瞬間から、単価は二重管理になります。もとの単価表はそのままファイルに残り、変更ぶんはメールボックスの中にあります。次の改定はまた別のメールで来ます。半年も経てば、正しい単価を知るためには、単価表を見て、そのあとメールを日付順に全部たどり直す必要が出てきます。誰もやりません。そして次のようなことが起きます。
- 古い単価のまま見積書を出してしまい、受注してから逆ざやに気づく
- 改定後の単価で請求が来たのに、発注時の単価と合わずに支払いが止まる
- 値上げの連絡は届いていたが、担当者の受信箱の中だけで止まっていて社内に共有されていない
- 「来月から」と言われた改定の適用開始日が過ぎたことに、誰も気づかない
- 去年の見積を再提出したいのに、当時どの単価で計算したのかがもう分からない
- 担当者が異動して、口頭で聞いていた条件が丸ごと消える
ここで扱っているのは「どの品目が、いつから、いくらになったか」を並べておくことだけです。判断らしい判断はほとんど含まれていません。それでも仕組みにならないのは、市販の購買システムが発注から検収、支払いまでを通した大がかりな作りで、単価を持っておきたいだけの会社には過剰だからです。ここに内製の出番があります。自社が扱う品目の範囲に合わせた小さな台帳なら、購買や経理の担当者が自分の手で作れます。購買まわりの仕事全般をどう仕組みへ寄せるかは購買・調達をClaude Codeで効率化する方法もあわせてご覧ください。
作るツールの全体像
今回作るのは、「この品目は今日いくらか」と「来月から何が変わるか」の二つに常に答えてくれる小さなツールです。流れは次のとおりです。
- 単価の台帳:仕入先名・品目名・単価・適用開始日を、一件一行で持つ
- 今日時点で有効な単価の抽出:同じ品目の行のうち、適用開始日が今日以前でいちばん新しいものを取り出す
- 改定予定の先出し:適用開始日がまだ先の行を、これから変わるものとして並べる
- 過去の単価の再現:任意の日付を指定して、その日に有効だった単価を取り出す
この設計でいちばん大事なのは、単価を上書きしないことです。値上げの連絡が来たときにやりたくなるのは、台帳の単価の欄を新しい数字に書き換えることです。見た目はいちばんすっきりしますし、常に最新の値が入っている状態になります。ところがこれをやると、過去がまるごと消えます。三か月前に出した見積の根拠を確認したくても、当時の単価はもうどこにも残っていません。請求書と発注書の金額が合わないときに、どちらが正しいのかを判定する材料もなくなります。単価は、上書きするものではなく、行を足していくものです。同じ品目に対して「4月1日から100円」「10月1日から110円」という二行を持たせておけば、今日時点の単価も、過去のある日の単価も、どちらも同じ台帳から取り出せます。増えるのは行数だけで、失うものは何もありません。
もう一つ、最初に決めておきたいのが、この台帳の役割の線引きです。ここで作るのは「合意した単価を記録して、今どれが有効かを答える」道具です。その単価が妥当かどうか、値上げの申し入れを受けるかどうか、いつ交渉するかは、人が決めることです。ツールに判断させないでください。また、単価は自社の情報であると同時に、仕入先の情報でもあります。取引先との契約で守秘の取り決めがある場合は、その範囲の中で扱う必要があります。同業他社と単価情報をやり取りすることについては、独占禁止法上の問題になり得る場面があるとされているため、社外との共有は必ず自社の法務部門や顧問の弁護士、および公正取引委員会の公表資料といった一次情報でご確認ください。本記事では、あくまで自社の中で自社が合意した単価を管理する範囲を扱います。
用意するもの
準備するのは次の3つだけです。特別な開発環境は必要ありません。
- Claude Code:指示を出すと、必要なファイルを自動で作ってくれます。導入手順はClaude Codeのはじめ方を参照してください。
- 今使っている単価表の様式:一枚で十分です。どんな項目を並べているかが分かれば足ります。
- 品目名の呼び方の一覧:社内で使っている呼称と、仕入先の伝票に載っている品名の対応が分かるものです。手書きのメモで構いません。
ここで一つだけ、渡す前に必ず確認してほしいことがあります。仕入先から受け取った単価表そのものを、そのままClaude Codeに読み込ませないでください。これから作るのは仕組みであって、既存の単価を移し替えることではありません。項目の並びを知りたいだけなら、金額と取引先名を伏せた一枚か、自社で作った白紙の様式で十分です。取引条件は相手方にとっても外に出したくない情報です。何を渡してよいかの線引きに迷う場合は、生成AIの情報漏えい対策で判断の基準を決めてから進めてください。競合の販売価格を外から観察する側の仕組みは競合価格モニタの作り方で扱っており、今回の「自社が仕入れる単価を管理する」話とは別物です。
Claude Codeへの指示と作成手順
ここからは、実際にClaude Codeへ出す指示の流れを順番に見ていきます。専門用語は使わず、ふだんの言葉で頼むのがコツです。
第一段階:単価を上書きせず、行を積む形で持たせる。「仕入先の単価を管理したい。仕入先名・品目名・単価・適用開始日の四つを、一件一行で持たせてほしい。単価が変わったときは既存の行を書き換えるのではなく、新しい適用開始日の行を足す形にしてほしい」と伝えます。順番が大事です。ふつうに頼むと、品目ごとに一行を持ち、単価の欄を更新していく形が出てきます。それがいちばん自然な設計に見えるからです。最初に「行を足す形にしてほしい」と一言添えるだけで、あとから過去を復元できる台帳になります。逆に、作ってしまってから履歴を持たせようとすると、それまでの改定が一件も残っていない状態からのやり直しになります。四つに絞るのは、欄を増やすと入力が止まるからです。数量帯別の単価や納入条件を最初から入れたくなりますが、まずは四つで動かして、必要になってから足してください。
第二段階:今日時点で有効な単価を取り出させる。「同じ仕入先の同じ品目について、適用開始日が今日以前の行のうち、いちばん新しいものを有効な単価として表示してほしい」と伝えます。ここが本記事でいちばん実務に効くところです。行を積む形にすると、当然ながら同じ品目の行が複数並びます。その状態で「今いくらか」を人が目で追うと、いちばん下の行を見てしまいがちですが、それは正しくありません。適用開始日が来月の行が下に入っているかもしれないからです。「今日以前でいちばん新しい」という取り出し方を最初に決めておけば、行が何本に増えても答えは一つに定まります。あわせて必ず伝えてほしいのが、「適用開始日が空の行は、有効な単価として扱わないでほしい」という一言です。日付が入っていない行を「たぶん昔から有効」と解釈させると、間違った単価が静かに採用されます。空欄は空欄のまま、要確認として別に並べさせてください。
第三段階:改定予定を先に出させる。「適用開始日がまだ先の行を、これから変わる単価として別に並べてほしい。あと何日で切り替わるかも一緒に出してほしい」と伝えます。値上げの連絡が痛いのは、金額そのものより、気づくのが切り替わったあとになることです。「10月出荷分より」と書かれたメールを9月に受け取っても、その情報は9月のうちは何も起こしません。だから受信箱の中で静かに沈みます。切り替わる前に一覧で見えていれば、その前に発注をまとめるか、価格の見直しを申し入れるか、自社の販売価格に反映するかを、選べる時間が生まれます。この「予定を先に出す」という考え方は他の台帳でも同じように効くので、契約更新管理ツールの作り方もあわせてご覧ください。日々の細かな仕事を仕組みに寄せる考え方は定型業務をAIで自動化する進め方で扱っています。
第四段階:過去の日付を指定して、その日の単価を再現させる。「日付を一つ指定したら、その日に有効だった単価を品目ごとに出してほしい」と伝えます。第二段階の「今日」を、任意の日付に置き換えるだけなので、作る手間はほとんど変わりません。それでいて、効く場面は多くあります。半年前の見積を再提出するとき、請求書の金額が発注書と合わないとき、期をまたいだ原価の変化を説明するとき。いずれも「そのとき何円だったか」が分かれば片がつきます。ここで注意したいのは、出てきた数字を実際の取引額そのものとして扱わないことです。台帳に入っているのは合意した単価であって、実際に請求された金額ではありません。両者が食い違っていないかを見るのは別の仕事で、その突き合わせは請求書と発注の突合ツールの作り方で扱っています。発注そのものの進み具合を追う側は発注管理ツールの作り方、見積を出す側は見積書作成ツールの作り方が対応します。作ったあとに何を広げていくかの考え方はClaude Codeで業務ツールを作る5ステップが参考になります。
つまずきやすい点と回避策
はじめて内製する方が引っかかりやすいポイントを、先回りしてお伝えします。
単価の欄を書き換えてしまうこと。これが最も重大な失敗です。値上げの連絡が来るたびに数字を直していくと、台帳は常に最新の状態に保たれ、見た目もすっきりします。問題が起きるのは、過去を振り返る必要が出た日です。去年の見積の根拠も、改定の回数も、いつからいくらだったのかも、もうどこにもありません。しかも失われていることに気づくのは、必要になった瞬間なので、手の打ちようがありません。行を足す形にしておけば、増えるのは行数だけです。何百行になっても、今日有効な単価は一つに定まります。作り始める前の一言で決まる差なので、ここだけは最初に押さえてください。
品目名の表記をそろえないまま積み始めること。二番目に多い失敗です。同じものが「A材」「A材(新)」「Aざい」と書かれていると、行を積んでも同じ品目として並びません。並ばないということは、今日有効な単価が取り出せないということです。しかもこの不一致は、行が少ないうちは目で見て気づけるので放置され、増えてから発覚します。自社の呼称を先に一覧にして、その中から選ぶ形にしておいてください。仕入先の伝票に載っている品名と自社の呼称が違う場合は、対応表を持たせるのが早道です。表記をあとからそろえる作業がどれだけ厄介かは、顧客リストの名寄せツールの作り方で扱っているとおりです。
値上げの妥当性をツールに判断させようとすること。三番目に注意したい点です。台帳に改定の履歴が溜まってくると、「この仕入先は値上げが多い」「この品目は上がりすぎだ」といった話を、ツールに言わせたくなります。しかしツールが持っているのは、自社に届いた連絡だけです。原材料の相場がどう動いたか、その仕入先がどんな条件を飲んでくれているか、他に切り替え先があるか、といった材料は一切入っていません。数字の並びだけを見て評価を出させると、事情を無視した結論が、根拠のある分析のような顔をして出てきます。ツールに任せてよいのは「いつ、いくらから、いくらに変わったか」を並べるところまでです。取引先そのものをどう評価するかという話は取引先評価ツールの作り方で別に扱っています。
連絡の受け口を一本化しないまま、台帳だけを作ること。四番目です。台帳ができても、改定の連絡が担当者個人のメールと、現場での立ち話と、社長宛の手紙に分かれたままなら、台帳に入る行は届いた連絡の一部でしかありません。この状態でも「入っているぶんについては正しい」という価値はありますが、危ないのは、台帳に載っていない改定を「改定されていない」と読み違えることです。作る前に、価格の連絡がどこに届いているかを一度書き出してください。そのうえで、受け口を購買の共通の宛先に寄せるのか、届いた人が台帳に一行足す運用にするのかを決めます。これは仕組みの問題ではなく運用の問題なので、ツールでは解決できません。作ったあと長く使い続けるための見直しの進め方は内製ツールの保守の進め方で解説しています。在庫の側から発注のきっかけを拾う仕組みは在庫アラートツールの作り方で扱っています。
まとめ:今いくらかを答えるのはツールに、その単価を飲むかを決めるのは人に
本記事の要点を整理します。
- 単価が分からなくなるのは管理していないからではなく、改定の連絡が単価表の外側(メールや口頭)で届き、二重管理になるから
- 作るのは「単価の台帳→今日時点で有効な単価→改定予定の先出し→過去の単価の再現」の小さなツール
- いちばん大事なのは、単価を上書きせず行を足すこと。上書きすると、必要になった瞬間に過去が消えていることに気づく
- 今日有効な単価は「適用開始日が今日以前でいちばん新しい行」で取り出す。いちばん下の行ではない
- 適用開始日が空の行は有効な単価として扱わせない。空欄は要確認として別に並べる
- 改定予定を切り替わる前に見せる。気づくのが後になるから値上げは痛い
- 値上げの妥当性はツールに評価させない。台帳にあるのは届いた連絡だけで、相場も代替先も入っていない
品目名と、単価と、適用開始日。この三つを一行に並べて積んでいくだけで、単価の管理は「最新がどれか分からない紙とメールの束」から「今日いくらかに即答できる仕組み」へ変わります。まずは自社の単価表を一枚だけ手元に置き、金額を伏せた状態で項目の並びをClaude Codeに伝えて、四つの欄を持つ台帳を作らせるところまでを試してみてください。研修費用の負担を抑えながら社内に内製できる人を増やす方法は生成AI研修に使える助成金もご確認ください。
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