なぜ校正チェックを内製で持つのか
社外に出す文書の誤りは、たいてい同じ場所で起きます。前に作った資料を複製して作り直すときの宛先、複数人で分担して書いた資料のつなぎ目、急いで差し替えた数字と日付のまわり。時間がないときほど起きるのに、時間がないときほど読み返されません。目視での読み合わせを社内ルールにしている会社もありますが、これは人手が空いているときしか回りません。この状態では、次のようなことが起きます。
- 前の案件の会社名や担当者名が残ったまま、別の顧客に送られる
- 同じ資料の中で送り仮名や中黒の付け方が混在し、寄せ集めた印象を与える
- 自社サービスの正式名称が部署ごとに違う書き方で外に出ていく
- 敬称の重なりや二重敬語が、丁寧に書こうとした箇所ほど残る
- 誰かが見つけて直しても、その知見がその人の頭の中にしか残らない
ここで扱っているのは「決めた表記と、書かれている表記を、一行ずつ突き合わせる」という、照合が中心の処理です。人が読むと意味を追ってしまうため、かえって表記の違いは目に入りません。機械に向いた仕事です。逆に「この場面ではくだけた言い方のほうがよい」「この一文はあえて短く切る」という判断は、相手と文脈を知っている書き手にしかできません。校正の機能を持つ文書ツールもありますが、辞書に自社の固有名詞や社内ルールを反映させるには全社での設定と運用が前提になり、それが整うのを待っているうちに資料は今日も出ていきます。まずは「自分の部署がよく間違える言葉だけを拾える」身軽な仕組みを先に作れるのが内製の強みです。同じ文面を何度も書く場面そのものを減らす手前の作業はマニュアル作成ツールの作り方とあわせて考えると効きます。
作るツールの全体像
今回作るのは、文書を渡すと決めた表記との食い違いを指摘として並べてくれる小さなツールです。流れは次のとおりです。
- 用語集の作成:用語・正しい表記・誤りやすい表記・使う場面の4項目を、一語ずつ短く残す
- 文書の読み込み:チェックしたい資料を渡し、本文をそのままの形で読み取る
- 突き合わせ:用語集に反する箇所と、資料の中で表記が揺れている箇所を探す
- 指摘の出力:どこに・何が・なぜという三点を、直す前の候補として一覧に出す
- 用語集の追記:新しく見つかった誤りを一語足し、次からは自動で拾えるようにする
この設計でいちばん大事なのは、四つ目です。指摘を出すところで止めて、文章そのものを書き換えさせないでください。「直しておいて」と頼めば、きれいに整った文章が返ってきます。ところが返ってきた文章は、表記だけでなく言い回しも段落の順序も変わっていることがあり、しかも見た目が整っているせいで変わったことに気づけません。金額の書き方や条件の一文が滑らかに言い換えられていて、後から意味が違うと分かる——これが最も危ない事故です。指摘の形にしておけば、どこを触るかを人が一件ずつ決められます。あわせて、指摘は「機械が確定できる誤り」と「人が判断する揺れ」に分けてください。社名の一文字違いや日付の食い違いは前者、文末の丁寧さや漢字を開くかどうかは後者です。混ぜて出すと、確実に直すべき一件が好みの問題に埋もれます。このツールが引き受けるのは、食い違いを指摘するところまでです。翻訳や多言語の言い回しの調整は翻訳ツールの作り方、契約書の条項そのものの確認は契約書レビュー支援ツールの作り方と役割を分けておくと、どれも軽いまま続きます。
用意するもの
準備するのは次の3つだけです。特別な開発環境は必要ありません。
- Claude Code:指示を出すと、必要なファイルを自動で作ってくれます。導入手順はClaude Codeのはじめ方を参照してください。
- 過去に指摘された誤りのメモ(20語程度で十分):上司や先輩に直された箇所、顧客から指摘された表記など、思い出せる範囲で構いません。
- 実際に社外へ出した資料(2〜3本):提案書・案内文・報告書など、種類の違うものを混ぜると精度を測りやすくなります。
メモを用意するときは、正しい表記だけでなく、実際に書かれてしまった誤った表記のほうを必ず残してください。「正しくは株式会社◯◯」とだけ書いても、機械は何と間違えやすいのかを知りません。「◯◯株式会社と書かれがち」「◯○のあいだに中黒が入りがち」まで残して初めて、探す対象が決まります。あわせて、自社サービスの正式名称・略称・使ってはいけない旧称の三点を最初に固めておくと、指摘の精度が一段上がります。社外資料や顧客名をAIに渡すときの考え方は業務AI利用時の情報漏えい対策で解説しています。未公開の提案内容や見積金額を含む資料を扱うので、どこまでを渡してよいかを先に上長と確認してから進めてください。
Claude Codeへの指示と作成手順
ここからは、実際にClaude Code へ出す指示の流れを順番に見ていきます。専門用語は使わず、ふだんの言葉で頼むのがコツです。
第一段階:文章を書き直させず、指摘だけを出させる。「社外に出す資料の表記の誤りを見つけたい。直した文章ではなく、どこが・何と食い違っていて・なぜ気になるのかを一覧で出してほしい」と目的を伝え、手元の資料を渡します。ここが本記事でいちばん大事なところです。「直して」と頼むと全文が書き換わって返り、整った文章を前に差分を追う気力が続かず、結局そのまま使ってしまいます。指摘の形なら、一件ずつ見て採否を決められます。あわせて「該当する箇所が資料のどのあたりにあるかも書いて」と伝えてください。指摘に場所が付いていないと、探すところからやり直しになります。
第二段階:用語集を4項目で作り、突き合わせの土台にする。「用語・正しい表記・誤りやすい表記・使う場面の4項目で用語集を作ってほしい」と伝え、過去に指摘された誤りのメモを渡します。使う場面の欄があるのは、正しさが文書の種類で変わるからです。社内の議事録では略称で構わないが、顧客向けの提案書では正式名称でなければならない、という区別はよくあります。一つの正解だけを持たせると、社内文書にまで過剰な指摘が並び、やがて誰も見なくなります。項目はこれ以上増やさないでください。分類・優先度・登録者・登録日と足したくなりますが、増えるほど新しい語を足すのが億劫になり、更新の止まった用語集は使われなくなります。
第三段階:確定できる誤りと、人が判断する揺れを分けて出させる。「用語集に載っている語との明確な食い違いと、文体や漢字の開き方のような好みの範囲の揺れを、分けて出してほしい」と伝えます。前者には社名や商品名の誤字、日付や年度の食い違い、資料内で表記が混在している語が入ります。後者には文末の調子、送り仮名、読点の打ち方が入ります。分けて出させておけば、時間がないときは前者だけ見て出す、という運用ができます。ここで「後者は多くても三件までにしてほしい」と件数の上限を伝えておくのも有効です。文体の指摘は際限なく出せてしまうので、上限がないと一覧が好みの話で埋まります。社外向けの発信全般での表記の統一は広報・PR業務でのClaude Code活用、販促物の制作の流れはマーケティング業務でのClaude Code活用もあわせてご覧ください。
第四段階:見つかった誤りを用語集に足し、育つ形にする。「今回見つかった誤りのうち、これからも起きそうなものを用語集に足す候補として出してほしい」と伝えます。この一手間が、内製の校正ツールを市販の辞書より役に立たせる分かれ目です。自社の固有名詞、取引先の正式名称、業界特有の言い回しは、外の辞書には載っていません。使うたびに一語ずつ足していけば、半年で自部署専用の辞書になります。足すかどうかは人が決めてください。一度きりの言い間違いまで登録すると、用語集が膨らんで見通しが悪くなります。あわせて「用語集を最後に更新したのがいつかを残せるようにしてほしい」と伝えておくと、引き継いだ人が状態を判断できます。過去の資料から正しい表記を探す作業には社内文書検索ツールの作り方が使えます。内製で何を作るかの選び方はClaude Codeで業務ツールを作る5ステップもあわせてご覧ください。
つまずきやすい点と回避策
はじめて内製する方が引っかかりやすいポイントを、先回りしてお伝えします。
校正と推敲を混ぜて、文章ごと書き換えさせてしまうこと。これが最も多い失敗です。表記の確認を頼んだつもりが、返ってきたのは全体が整えられた別の文章で、読むと確かに読みやすい。そのまま使いたくなりますが、ここに落とし穴があります。表記の統一と、言い回しの改善と、内容の要約は、まったく別の作業です。まとめて任せると、条件や金額を含む一文が滑らかに言い換えられ、意味が変わったことに気づけません。整った文章ほど疑いにくいという性質があるので、事故は静かに起きます。頼むのは指摘までにして、直す操作は人の手で行ってください。文章そのものを良くしたい場合は、表記の確認とは別の作業として、後から改めて頼めば済みます。読みやすさを上げる指示の出し方は業務で使えるプロンプトの書き方が参考になります。
用語集を最初から完璧に作ろうとすること。二番目に多い失敗です。始める前に社内の用語を洗い出そうとすると、どこまでを対象にするかで迷い、部署ごとの流儀の違いが出てきて、一覧が百語を超えたあたりで手が止まります。そして完成しない用語集は一度も使われません。始めるのは、過去に実際に指摘された二十語で十分です。実際に間違えた記録のある語は、これからも間違える語です。使いながら足していけば、自分たちが本当に必要とする語だけが残ります。逆に、外から持ってきた汎用の表記ルールをそのまま入れるのは避けてください。自社では使わない語の指摘が並び、確認する手間だけが増えます。
指摘をそのまま正解として扱い、確認せずに直すこと。機械の指摘には、正しくないものが混ざります。文脈上あえてそう書いている箇所、引用した相手方の原文、法令や契約書に定められた文言などは、直してはいけない箇所です。特に引用と契約文言は、表記を整えたことで意味が変わる危険があります。指摘は候補であって指示ではない、という前提を使う人全員に共有してください。直すかどうかの最終判断と、文章の書き換えは人が持ちます。ツールが引き受けるのは、食い違いの抜き出しまでです。作ったあとも用語は増えていくので、月に一度は見直す時間を取ってください。長く使い続ける工夫は内製ツールの保守の進め方で解説しています。
まとめ:食い違いの抜き出しはツールに、直すかどうかの判断は人に
本記事の要点を整理します。
- 社外文書の誤りが減らないのは注意力の問題ではなく、書いた本人が自分の表記の揺れを見つけにくいこと
- 作るのは「用語集の作成→文書の読み込み→突き合わせ→指摘の出力→用語集の追記」の小さなツール
- 用意するのはClaude Code・過去に指摘された誤りのメモ20語程度・実際に出した資料2〜3本の3つだけ
- いちばん効くのは、文章を書き直させず、どこが何と食い違うかの指摘だけを出させること
- 確定できる誤りと好みの範囲の揺れは分けて出す。混ぜると確実に直すべき一件が埋もれる
- 直すかどうかの最終判断と書き換えは人が持ち、ツールは食い違いの抜き出しまで
食い違いを見つけるのはツールに任せ、直すかどうかは人が決める——この役割分担を押さえれば、社外に出す資料の確認は「誰かが時間のあるときに読み合わせる行事」から「出す前に必ず一度通す手順」へ変わります。まずは過去に指摘された二十語だけをClaude Code に渡して、直近の提案書を一本通してみてください。定型の作業を自動化に落とす進め方は定型業務をAIで自動化する進め方、法務の観点での確認は法務業務でのClaude Code活用もあわせてご覧ください。研修費用の負担を抑えながら社内に内製できる人を増やす方法は生成AI研修に使える助成金もご確認ください。
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