なぜ未精算の管理を内製で持つのか
経費の申請には、たいてい仕組みがあります。申請の様式があり、承認の順番が決まっていて、規程に合っているかを見る人がいます。ところが、その仕組みが動き出すのは「精算の申請が出てから」です。お金が先に動いて、まだ申請が出ていない期間は、どの仕組みからも外れたところにあります。そして未精算がやっかいなのは、まさにその期間に育つことです。この状態だと、次のようなことが起きます。
- 出張の前に渡した現金が、帰ってきてからも精算されず、月をまたいで残る
- 社員が立て替えたまま申請を出しそびれ、本人が言い出すまで会社側が気づかない
- 仮払と立替が同じ欄に並び、返してもらう分と払う分が打ち消し合って残高の意味が消える
- 渡した金額より使った金額が少なく、返してもらうはずの端数がどこにも残らない
- 異動や退職のタイミングで、誰の分だったのか分からない残高だけが台帳に残る
ここで扱っているのは「先に動いたお金が、元に戻ったか」という、日付と金額の見張りが中心の処理です。件数が多く、日をまたいで追い続ける必要があり、人がやると単調で必ず抜けます。機械に向いた仕事です。逆に「この支出を経費として認めてよいか」「規程を外れた申請をどう扱うか」「返してもらうか給与から差し引くか」という判断は、経緯と規程と本人の事情を知っている人にしかできません。会計ソフトにも経費精算のサービスにも仮払管理の機能はありますが、全社の運用と勘定科目の設計が前提になっていて、それが整うのを待っているうちに、現場は今日も申請書の束を数えることになります。まずは「精算されないまま日が経っている件が見えるだけ」の身軽な仕組みを先に作れるのが内製の強みです。出てきた申請が規程に合っているかを見る側は経費精算のAIチェックツールを作る手順で扱っています。本記事はその手前、申請が出てくる前の期間を扱います。
作るツールの全体像
今回作るのは、先に動いたお金を一件ずつ残し、精算されるまで見張る小さなツールです。流れは次のとおりです。
- お金が動いた記録:発生日・相手(社員)・用途・金額を、一件ずつ短く残す
- 向きの区別:会社が先に出した仮払と、社員が先に出した立替を、別々の残高として持つ
- 精算の記録:精算できた金額を書き入れ、残りがなくなって初めて完了として扱う
- 滞留の抜き出し:発生から日が経っているもの、申請が出ていないもの、精算後に端数が残っているものを、それぞれ分けて出す
- 部署ごとの集計:どこにどれだけ残っているかを数え、締めの前に見る材料として残す
この設計でいちばん大事なのは、二つ目です。仮払と立替を同じ「未精算」の欄にまとめないでください。この二つは、お金の向きが正反対です。仮払は会社が先に出したお金なので、精算するときに使われなかった分が会社に戻ってきます。立替は社員が先に出したお金なので、精算するときに会社が払います。それを一つの欄で足し合わせると、返ってくるはずの分と払うはずの分が数字の上で打ち消し合い、残高がゼロに近づくほど「片付いている」ように見えてしまいます。実際には、返ってきていない仮払と、払っていない立替が、両方そのまま残っているだけです。台帳の行にどちら向きかを必ず持たせ、集計も向きごとに分けて出す——これを最初に決めておくと、後から数字の意味を説明できます。逆に、最初から項目を増やすのは避けてください。勘定科目・課税区分・部門コード・振替伝票の番号と並べたくなりますが、それらは会計システム側に正が置かれるもので、この台帳で二重に持つと必ずどちらかが古くなります。このツールが引き受けるのは、先に動いたお金が戻ったかを見張るところまでです。会社が外部に払う予定は支払予定を管理するツールの作り方、承認そのものの流れは稟議・承認フローを効率化するツールの作り方と役割を分けておくと、どれも軽いまま続きます。
用意するもの
準備するのは次の3つだけです。特別な開発環境は必要ありません。
- Claude Code:指示を出すと、必要なファイルを自動で作ってくれます。導入手順はClaude Codeのはじめ方を参照してください。
- 直近の仮払・立替の記録(10件程度で十分):現金の受け渡しのメモでも、精算申請の控えでも構いません。整った形になっている必要はありません。
- 精算のときに使っている様式の見本(1枚で十分):どの項目を書かせているかが分かる形になっていることが大事です。
記録を用意するときは、素直に精算まで終わった件だけでなく、渡したまま何か月も残っている件・渡した額より使った額が少なくて端数が戻る件・立て替えたまま申請が出ていない件を必ず混ぜてください。うまく片付いた件ばかりを見て作ると、向きも残りも持たない台帳が出来上がり、いちばん見つけたかった「戻ってきていないお金」が見つからない仕組みになります。社員の名前や支出の内容をAIに渡すときの考え方は業務AI利用時の情報漏えい対策で解説しています。ここで扱うのは個人に紐づくお金の情報なので、どこまで扱ってよいかを経理と人事に先に確認してから進めてください。
Claude Codeへの指示と作成手順
ここからは、実際にClaude Code へ出す指示の流れを順番に見ていきます。専門用語は使わず、ふだんの言葉で頼むのがコツです。
第一段階:お金が動いた時点で一行つくらせる。「先に動いたお金が精算されて戻ったかを見張りたい」と目的を伝え、手元の記録を渡します。「発生日・相手・用途・金額の4項目を残したい」と項目を伝えたうえで、「会社が先に出した仮払なのか、社員が先に出した立替なのかを必ず持たせて、集計は向きごとに分けて出してほしい」と必ず足してください。ここが本記事でいちばん大事なところです。あわせて、台帳に行ができるタイミングを「精算の申請が出たとき」ではなく「お金が動いたとき」に置いてください。申請が出た時点で行を作る形にすると、申請が出ていない件は台帳に存在しないことになり、いちばん探したかった「出しそびれている立替」が原理的に見つからなくなります。現金を渡したその場で、あるいは社員が立て替えたその日に、短くても一行を残す——これだけで台帳の役割が変わります。
第二段階:精算を書き入れ、残りが出る形にさせる。「精算できた金額を書き入れると、動いた金額との差が残りとして自動で出るようにしてほしい」と伝えます。仮払は、渡した額より使った額が少ないことがよくあります。差額は本人から戻してもらう分なので、精算の申請が終わっても残りとして見えていないと、そのまま消えます。逆に、渡した額を超えて使った場合は、超えた分を会社が払う立替に変わります。「一件の中で向きが変わることがあるので、そのときは残りがどちら向きなのかが分かるようにしてほしい」と伝えておくと、後から見て混乱しません。ここでも、精算が済んだかどうかを二択の印だけで持たせないでください。金額の差として持てば、合っていない件は合っていないまま台帳の上に残り続け、名指しで抜き出せます。
第三段階:滞留している件を分けて出させる。「お金が動いてから日が経っているのに精算の申請が出ていないもの、精算は終わったのに端数が残っているもの、金額が動いた記録はあるのに用途が書かれていないものを、それぞれ分けて出してほしい」と伝えます。三つとも次にやることが違うので、一つの一覧にまとめないのがコツです。一つ目は本人に声をかける話、二つ目は戻してもらう手続きの話、三つ目は記録を直す話です。何日過ぎたら出すかは、自社の締めと精算の運用に合わせて決めてください。ここに一般的な目安はありません。短くしすぎると、出張から帰ってきたばかりの件が毎日並んで誰も見なくなり、長くしすぎると月次の締めに間に合いません。まず粗く決めて、しばらく使ってから直すのが確実です。抜き出しを日々の仕事に乗せるには、確認する人と時間を決めてタスク管理ツールの作り方で作った一覧に載せておいてください。
第四段階:声をかけた記録を残し、部署ごとに数える。「いつ誰が本人に確認したかを残せるようにしてほしい」「残っている未精算を部署ごと・向きごとに数えて、多い順に並べてほしい」と伝えます。声かけの記録がないと、同じ人に何度も催促したり、逆に誰も声をかけないまま月をまたいだりします。部署ごとの集計は、誰かを責める材料ではなく、運用を変える材料です。特定の部署にいつも残るなら、仮払の渡し方そのものを見直したほうが早いかもしれません。締めの前にどれだけ残っているかを見たいときは部門予算の執行管理ツールの作り方、月次の締め全体の効率化は経理担当が5日で仕訳チェックツールを自作する手順もあわせてご覧ください。完成したら操作の流れをメモに残しておくと、担当が交代しても同じ形で回せます。
つまずきやすい点と回避策
はじめて内製する方が引っかかりやすいポイントを、先回りしてお伝えします。
仮払と立替を一つの「未精算」欄にまとめてしまうこと。これが最も多い失敗です。作り始めると、どちらも「まだ片付いていないお金」なので、同じ欄に並べるのがいちばん素直に見えます。しかしこの二つは向きが逆で、足し合わせると打ち消し合います。返してもらうはずの仮払と、払うはずの立替が同じくらい残っている月は、合計だけ見ればほとんど残っていないように見えます。実際には両方そのまま残っていて、片方は会社のお金が社員の手元にあり、もう片方は社員のお金を会社が使っている状態です。向きを持たせずに作ってしまうと、後から分けようとしても元の記録に情報がないので、過去の行はもう分類できません。最初の一行を作る前に、向きの欄を必ず入れてください。同じ理由で、合計金額だけを見て「今月は少ない」と判断する運用も避けてください。見るべきは向きごとの残高と、その中で日が経っている件の数です。
精算の可否をツールに決めさせてしまうこと。この支出が経費として認められるか、規程の範囲に入っているか、領収書がない分をどう扱うかは、規程と経緯と本人の事情を踏まえた判断です。金額と日付だけを見て機械が決められるものではありません。とくに、精算されないまま残った仮払を給与から差し引く、あるいは立替分を給与に上乗せして払うといった扱いは、労働条件や社会保険の扱いに関わることがあり、人事と経理の確認が必要です。税や勘定科目の判断は経理と顧問税理士が持ちます。この台帳が持つのは日々の見張り用の写しであって、正しい数字は会計システム側にある——と割り切ってください。規程そのものの運用や、規程を外れた申請の扱いについては社内AI利用ガイドラインの作り方で触れている考え方と同じで、線を先に引いておくほど後が楽になります。
抜き出しを、個人の評価として扱うこと。精算が遅れている人の一覧を、そのまま評価の材料に使うと、記録が静かに歪みます。立て替えたこと自体を言い出さなくなり、本人が黙って負担するか、金額を丸めて申請するようになります。一覧はいつもきれいで、実際に動いたお金は台帳の外に出る——という状態です。この台帳は、誰かの不手際を見つけるためではなく、動いたきり戻っていないお金を名指しするために作るものだ、と使い始める前に共有してください。同じことは用途の書き方にも当てはまります。人によって書き方がばらばらだと、集計も検索も効かなくなるので、よくある用途はいくつかの言い方に寄せておくと安定します。作ったあとも運用は変わっていくので、たまに見直す時間を取ってください。長く使い続ける工夫は内製ツールの保守の進め方で解説しています。
まとめ:未精算の抜き出しはツールに、精算の可否と扱いの判断は人に
本記事の要点を整理します。
- 未精算が育つのは怠慢だからではなく、お金が動いてから申請が出るまでの期間を見張る場所がないこと
- 作るのは「お金が動いた記録→精算の書き入れ→滞留の抜き出し→部署ごとの集計」の小さなツール
- 用意するのはClaude Code・直近の仮払と立替の記録10件程度・精算の様式の見本の3つだけ
- いちばん効くのは仮払と立替を同じ欄にまとめず、向きの違う残高として分けて持つこと
- 台帳の起点は申請が出た時点ではなく、お金が動いた時点に置く。載っていない行は抜き出せない
- 精算の可否と経費性の判断は人と経理と顧問税理士、給与での調整は人事が持ち、ツールは残っている未精算の抜き出しまで
戻ってきていないお金を名指しするのはツールに任せ、認めるかどうかと扱いをどうするかの判断は人が持つ——この役割分担を押さえれば、未精算の管理は「決算前に古い残高が出てくる仕事」から「日が経った翌週には手元に出てくる仕組み」へ変わります。まずは直近の仮払と立替を数件Claude Code に渡して、向きごとに残りが出る形にするところから始めてみてください。経費の申請そのものの点検は経費精算のAIチェックツールを作る手順、経理まわりの全体像は経理業務をClaude Codeで自動化もあわせてご覧ください。研修費用の負担を抑えながら社内に内製できる人を増やす方法は生成AI研修に使える助成金もご確認ください。
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