なぜ退職手続きの管理を内製で持つのか
退職や異動の連絡は、たいてい忙しい時期に来ます。引き継ぎの調整、後任の手配、最終出社日までの逆算。そのなかで「この人に何を渡していたか」を思い出す作業が始まります。総務は貸与品の台帳を見て、情シスは自分たちが管理しているアカウントを確認して、上長は共有フォルダの権限を思い出そうとする。それぞれが自分の持ち場だけを見るので、どの持ち場にも属さないものが残ります。この状態では、次のようなことが起きます。
- 担当者が個別に契約していたクラウドサービスの権限が、誰にも把握されないまま残る
- 返却された機器はあるのに、それが誰の分だったのかを後から突き合わせられない
- 停止を依頼したところで手続きが止まり、実際に止まったかを誰も確認していない
- 異動のときは在籍が続くため手続きそのものが省略され、前の部署の権限が積み上がる
- やり方が担当者の頭の中にあるため、その担当者が辞めると手順ごと失われる
ここで扱っているのは「渡したものの一覧と、返ってきたものの一覧を突き合わせて、差を出す」という、照合が中心の処理です。難しい判断はほとんど含まれていません。それでも漏れるのは、突き合わせる元の一覧が存在しないからです。逆に「この人は業務委託として契約が続くので、この権限だけは残す」「最終出社日のあとも給与関係の書類を受け取る必要がある」といった判断は、事情を知っている人にしかできません。人事システムや資産管理サービスにも同種の機能はありますが、全社で導入して部署ごとの運用を揃えるには時間がかかります。まずは「自分の部署が渡しているものだけを漏らさない」小さな仕組みを先に作れるのが内製の強みです。入社時に渡す側の流れは入社時チェックリストツールの作り方とあわせて設計すると、渡すときと返すときが一本の線でつながります。
作るツールの全体像
今回作るのは、退職や異動が決まったときに「まだ終わっていないこと」だけを並べてくれる小さなツールです。流れは次のとおりです。
- 貸与記録の作成:対象者・渡したもの・区分・止める時期の4項目を、渡した時点で一行ずつ残す
- 退職・異動の登録:対象者と最終出社日を入れ、手続きの起点にする
- 未完了の抜き出し:返却待ち・停止待ち・確認待ちの三つに分けて並べる
- 期限つき一覧の出力:いつまでに何をするかを、日付の近い順に出す
- 完了の記録:依頼した日と、実際に止まったことを確認した日を分けて残す
この設計でいちばん大事なのは、一つ目です。台帳を作るきっかけを、退職の連絡ではなく「渡した瞬間」に置いてください。退職が決まってから思い出そうとすると、覚えている範囲のものしか出てきません。しかも忘れられたアカウントは、忘れられたという事実ごと消えるので、二度と誰の目にも触れません。渡すときは相手も目の前にいて、何を渡したかがはっきりしています。そのタイミングで一行足すほうが、後からまとめて洗い出すより圧倒的に楽です。区分の欄を持たせるのは、物として返ってくるものと、操作して止めるものでは、終わり方がまったく違うからです。パソコンは受け取れば完了ですが、アカウントは「止めた」という状態を誰かが確かめないと完了になりません。このツールが引き受けるのは、未完了を抜き出すところまでです。会社の資産そのものの台帳は備品・資産管理ツールの作り方、契約中のサービスと利用者の対応はSaaSアカウント管理ツールの作り方と役割を分けておくと、どれも軽いまま続きます。
用意するもの
準備するのは次の3つだけです。特別な開発環境は必要ありません。
- Claude Code:指示を出すと、必要なファイルを自動で作ってくれます。導入手順はClaude Codeのはじめ方を参照してください。
- 自部署が渡しているものの書き出し(20件程度で十分):パソコン、携帯電話、入館証、鍵、業務で使っているサービスの権限など、思いつく範囲で構いません。
- 直近の退職・異動の記録(1〜2件):そのとき何をやったか、何が漏れたかを思い出しながら並べると、抜けている項目が見つかります。
書き出すときは、正式な資産番号のような厳密さを求めないでください。最初に必要なのは「渡っているものの種類」であって、台帳としての完全さではありません。むしろ大事なのは、誰が管理しているかが曖昧なものを意図的に入れることです。部署で契約している名前のないツール、担当者が自分で申し込んだ外部サービス、取引先のシステムに作ってもらったログイン情報。これらは公式の資産台帳には載らず、退職時にも議題に上がりません。把握されていない利用が広がる構図と対策はShadow AIとガバナンスで解説しています。あわせて、氏名や在籍情報を扱うので、どこまでの情報をAIに渡してよいかは業務AI利用時の情報漏えい対策を確認し、先に上長と決めてから進めてください。
Claude Codeへの指示と作成手順
ここからは、実際にClaude Code へ出す指示の流れを順番に見ていきます。専門用語は使わず、ふだんの言葉で頼むのがコツです。
第一段階:退職時のチェックリストではなく、渡した記録のほうを先に作る。「退職や異動のときに返却と停止の漏れをなくしたい。まず、誰に何を渡したかを渡した時点で一行ずつ残せる記録を作ってほしい」と目的を伝え、手元の書き出しを渡します。ここが本記事でいちばん大事なところです。多くの場合、最初に頼みたくなるのは「退職手続きのチェックリスト」ですが、それを作っても中身は毎回ゼロから思い出して埋めることになり、漏れる場所は何も変わりません。渡した記録さえあれば、チェックリストはそこから自動で作れます。項目は対象者・渡したもの・区分・止める時期の4つに絞ってください。取得日、資産番号、承認者、備考と足したくなりますが、増えるほど一行足すのが面倒になり、更新の止まった台帳は使われません。
第二段階:止める時期を項目ごとに持たせる。「返却や停止をいつ行うかは項目によって違うので、最終出社日の前・当日・後のどれかを選べるようにしてほしい」と伝えます。一律に退職日で全部止める設計にすると、両側で困ります。早すぎる停止は、最終出社日までの引き継ぎ作業を止めてしまいます。逆に、社外とのやり取りに使っていたメールや共有フォルダの権限は、最終出社日を過ぎてから止めるとその間のアクセスが残ります。給与や社会保険に関する書類のように、退職後にやり取りが続くものもあります。項目ごとに時期を持たせておけば、その日に何をすべきかが日付順に並びます。人事側の手続き全体をどう回すかは人事業務でのClaude Code活用もあわせてご覧ください。
第三段階:未完了を、返却待ち・停止待ち・確認待ちの三つに分けて出させる。「終わっていないものを、物の返却を待っているもの、停止の操作を待っているもの、止まったかどうかの確認を待っているものに分けて出してほしい」と伝えます。三つに分ける理由は、動く人が違うからです。返却待ちは本人に声をかける仕事、停止待ちは管理している部署に依頼する仕事、確認待ちは依頼した側が結果を見に行く仕事です。ひとまとめにすると、誰が動く番なのかが分からないまま一覧が残ります。とくに確認待ちを独立させるのが効きます。依頼のメールを送った時点で頭の中では完了になりますが、依頼が処理されたかどうかはまだ分かりません。あわせて「最終出社日を過ぎても終わっていないものは先頭に出してほしい」と伝えておくと、危ないものから順に目に入ります。
第四段階:依頼日と確認日を分けて、二段で完了にする。「停止については、依頼した日と、実際に止まったのを確認した日を別々に残せるようにしてほしい」と伝えます。この一手間が、内製の台帳を「やったつもりの一覧」から「事実の記録」に変える分かれ目です。とくに他部署や外部の業者が管理しているサービスは、依頼から反映まで日数がかかることがあり、その間に担当者の関心は次の仕事へ移ります。確認日の欄が空のまま残っていれば、後から誰でも気づけます。あわせて「異動のときも同じ流れで使えるようにしてほしい」と伝えてください。異動は在籍が続くぶん手続きが省かれやすく、前の部署の権限が残り続ける原因になります。作ったあとに何を自動化していくかの考え方はClaude Codeで業務ツールを作る5ステップ、日々の繰り返し作業へ広げる進め方は定型業務をAIで自動化する進め方が参考になります。
つまずきやすい点と回避策
はじめて内製する方が引っかかりやすいポイントを、先回りしてお伝えします。
退職が決まってから、渡したものを洗い出そうとすること。これが最も多い失敗です。退職の連絡が来てから台帳を作り始めると、思い出せたものだけが並びます。厄介なのは、漏れたものが「漏れた」と分からない点です。返ってこなかった機器は数が合わないので気づけますが、止め忘れたアカウントは何のエラーも出さず、誰にも通知されないまま生き続けます。半年後の棚卸しか、そのサービスの請求書を見直したときに、ようやく見つかります。だから記録のきっかけは渡した瞬間に置いてください。渡すときは相手も目の前にいて、何を渡したかがはっきりしているので、一行足すだけで済みます。すでに在籍している人の分は、退職を待たずに一度だけ棚卸しの時間を取り、そこから先は渡すたびに足す運用へ切り替えるのが現実的です。
依頼したことをもって完了とみなすこと。二番目に多い失敗です。停止の依頼を出した時点で一覧から消してしまうと、依頼が処理されなかった場合に気づく手立てがなくなります。依頼の宛先が退職していた、担当者が休みだった、そのサービスの管理者が別部署に移っていた——依頼が宙に浮く理由はいくらでもあります。依頼日と確認日を分けて持ち、確認日が入って初めて完了にしてください。確認のやり方も決めておくと迷いません。管理画面で利用者一覧から消えていること、ログインを試して入れないこと、返却物なら現物を受け取ったこと。ここを口頭の「終わりました」で済ませると、記録としては何も残りません。長く使い続けるための見直しの進め方は内製ツールの保守の進め方で解説しています。
ツールに実際の停止操作までやらせようとすること。三番目に注意したい点です。一覧が出てくると、次は自動で止めさせたくなります。しかし権限の停止は、間違えたときの影響が大きく、しかも取り消しに手間がかかる操作です。退職日が変わった、業務委託として契約が続くことになった、引き継ぎのために一週間だけ残す——予定が動くことは珍しくありません。実際に止める操作と、返却物を受け取ったという確認は人が持ってください。ツールが引き受けるのは、何が未完了かの抜き出しまでです。この線引きを守っておくと、手続きが変わっても台帳のほうを直すだけで済みます。バックオフィス全体での手続きの回し方はバックオフィス業務でのClaude Code活用もあわせてご覧ください。
まとめ:未完了の抜き出しはツールに、止める操作と確認は人に
本記事の要点を整理します。
- 退職時に漏れるのは詰めが甘いからではなく、突き合わせる元の一覧がどこにもないこと
- 作るのは「貸与記録の作成→退職・異動の登録→未完了の抜き出し→期限つき一覧→完了の記録」の小さなツール
- 用意するのはClaude Code・自部署が渡しているものの書き出し20件程度・直近の退職記録1〜2件の3つだけ
- いちばん効くのは、記録のきっかけを退職の連絡ではなく渡した瞬間に置くこと
- 未完了は返却待ち・停止待ち・確認待ちに分ける。動く人が違うので、混ぜると誰の番か分からなくなる
- 実際に止める操作と受け取りの確認は人が持ち、ツールは未完了の抜き出しまで
渡した時点で一行残しておく——この習慣さえ作れば、退職手続きは「その都度思い出す行事」から「一覧を上から消していく作業」へ変わります。まずは自部署が渡しているものを二十件だけ書き出してClaude Code に渡し、直近の異動を一件通してみてください。研修費用の負担を抑えながら社内に内製できる人を増やす方法は生成AI研修に使える助成金もご確認ください。
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