なぜアカウントの棚卸しを内製するのか
アカウントが残るのは、担当者が手を抜いているからではありません。契約したのが各部署、アカウントを配ったのが別の担当者、退職の連絡が届くのは人事——と入口が分かれたまま、全体を一望できる場所がどこにもないからです。現場では次のような困りごとが起きがちです。
- どのサービスを何契約しているのか、経理の引き落とし明細を見るまで分からない
- 退職や異動の連絡は人事から届くが、どのサービスを止めるべきかの一覧がない
- 使う人が減ったのに契約したライセンス数はそのままで、余った枠に払い続けている
- 管理者権限を誰に渡したかが記録されておらず、担当が代わると誰も分からない
この作業は「配ったアカウントの一覧と、いまの社員名簿を突き合わせる」という性質が強く、機械的な照合と相性の良い領域です。既製のSaaS管理サービスにも同様の機能はありますが、各サービスとの連携設定や利用者単位の課金が前提のものも多く、十数サービスという規模には見合わないこともあります。管理の手間を減らすために新しい契約を増やし、その棚卸しがまた増える、という本末転倒も起こりがちです。自社が実際に使っているサービスだけへ絞った身軽な仕組みを作れるのが内製の強みです。情シス側から見た全社の管理設計は情シス部門でClaude Codeを活用する進め方で整理しています。部署が個別に契約したサービスが把握されないまま増えていく問題はシャドーAIのガバナンスもあわせてご覧ください。
作るツールの全体像
今回作るのは、配ったアカウントを一か所に集め、止めるべきものと余っている枠を機械的に浮かび上がらせる小さなツールです。流れは次のとおりです。
- アカウントの記録:サービス名・利用者・権限の区分・利用状況を控え、一件として記録する
- 退職者との突合:人事の名簿と突き合わせ、在籍していない人のアカウントを抜き出す
- ライセンス数の差分:契約している枠の数と実際に配っている数を比べ、余りと不足を示す
- 権限の点検:管理者権限が付いているアカウントを抜き出し、想定どおりの人数かを確かめる
- 棚卸しの記録:確認した日と処理の結果を書き足し、次回の棚卸しの起点にする
大切なのは、最初から各サービスとの自動連携まで作り込まないことです。サービスごとに接続の仕組みが違うため、そこから手をつけると一つ目のサービスで止まります。まずはサービス名・利用者・権限の区分・利用状況の四つだけで動かし、各サービスの利用者一覧は管理画面から書き出したファイルを手で渡す形で構いません。月に一度その作業をするだけでも、残ったままのアカウントはほとんど見つけられます。会社が貸し出している機器の台帳と利用者をそろえておきたい場合は備品・IT資産管理ツールの作り方で作った台帳と氏名の書き方を合わせておくと、二重に登録し直す手間がなくなります。
用意するもの
準備するのは次の3つだけです。特別な開発環境は必要ありません。
- Claude Code:指示を出すと、必要なファイルを自動で作ってくれます。導入手順はClaude Codeのはじめ方を参照してください。
- いま使っているサービスの一覧(数件分で十分):手元の表でも、経理の引き落とし明細から拾ったものでも構いません。Claude Code が自社で実際に何を控えているかをつかめます。
- 各サービスの利用者一覧(一つ分で十分):管理画面から書き出せるものがあれば、まず一つだけ用意してください。列の並びが分かれば、他のサービスの一覧も同じ形に整えて取り込めるようになります。
利用者の一覧には氏名やメールアドレスといった個人情報が含まれ、権限の情報は社外に出すべきでない内容そのものです。試す段階でも社内の情報の取り扱いルールに沿い、社外に出さない環境で作業してください。業務でAIを安全に使う考え方は業務AI利用時の情報漏えい対策で解説しています。なお、アカウントの削除や停止の実際の操作は、必ず各サービスの管理画面で人が行ってください。ツールに任せるのは「止めるべき候補を抜き出すところまで」で、押すのは人、という線を最初に引いておくのが安全です。
Claude Codeへの指示と作成手順
ここからは、実際にClaude Code へ出す指示の流れを順番に見ていきます。専門用語は使わず、ふだんの言葉で頼むのがコツです。
第一段階:いまの一覧をそのまま渡す。「社内で使っている外部サービスのアカウントを一か所で管理して、止め忘れが分かる仕組みを作りたい」と目的を伝え、手元の一覧を数件分渡します。「サービス名・利用者・権限の区分・利用状況を控えている」と、いまの管理の中身をそのまま言葉で伝えれば、Claude Code が台帳の土台を作ってくれます。まずは身近な数サービスを入れて、いつもの見え方で並ぶかを確かめます。
第二段階:名簿と突き合わせさせる。台帳が整ったら、「人事の名簿を渡すので、在籍していない人のアカウントが残っていないか抜き出してほしい」と伝えます。ここが手作業で最も抜けるところなので、人が目で照合せずに済む形にしておくのが肝心です。氏名の表記ゆれや、メールアドレスだけで登録されているアカウントは照合が外れやすいので、実際にありそうな書き方をいくつか入れて意図どおりに拾えるかを確かめてください。入社と退職のたびに何を止めるかの段取りまで押さえたい場合は入社・退職手続きのチェックリスト管理ツールの作り方と組み合わせると、名簿の変化がそのまま棚卸しにつながります。
第三段階:余っている枠と権限を見せる形にする。「契約している枠の数と実際に配っている数を比べて、余りと不足を出してほしい」と伝えれば、支払っているのに使われていない枠がそのまま並びます。あわせて「管理者権限が付いているアカウントだけを抜き出してほしい」と頼むと、いつの間にか強い権限が広がっていないかを定期的に確かめられます。契約している枠の数や解約の申し入れの期限まで見張りたい場合は契約更新管理ツールの作り方で作った一覧とサービス名をそろえておくと、余った枠を次の更新で減らす判断につなげられます。
第四段階:棚卸しの記録を残す。「確認した日と、そのアカウントをどうしたかを書き足せるようにしてほしい」と伝えれば、台帳が使うたびに更新されていきます。抜き出した候補に対して「停止した」「本人に確認中」「そのまま残す」と結果を残しておくと、次の棚卸しで同じ行を何度も調べ直さずに済みます。月に一度なのか四半期に一度なのか、回す間隔を決めて記録しておけば、監査や親会社への説明を求められたときにもそのまま示せます。完成したら操作の流れをメモに残しておくと、担当が交代しても同じ形で回せます。
つまずきやすい点と回避策
はじめて内製する方が引っかかりやすいポイントを、先回りしてお伝えします。
各サービスとの自動連携から作り始めること。「管理画面から自動で利用者一覧を取ってきたい」と最初に考えると、サービスごとに接続の仕組みが違うため、一つ目で行き詰まって全体が完成しません。まずは管理画面から書き出したファイルを手で渡す形で回してください。月に一度その手間をかけるだけで、止め忘れと余った枠は十分に見つかります。自動で取り込む仕組みは、台帳が実務で使われるようになってから、利用者の多いサービスだけ足すほうが確実です。
止めてよいかの判断までツールに委ねること。Claude Code は名簿と突き合わせて候補を抜き出すのは得意ですが、そのアカウントを本当に消してよいかは判断できません。退職者名義でも業務データが紐づいていて、先に引き継ぎが要る場合があります。共用のアカウントや、外部の協力会社に渡しているものも混ざります。抜き出すところまでをツールに任せ、止めるかどうかの判断と実際の操作は人が持つ——この線引きを守ってください。契約の条件や解約の可否は、契約書と各サービスの窓口で必ず確認してください。
台帳は作ったのに更新されないこと。棚卸しの台帳は、アカウントを配ったときと止めたときに書き足されて初めて実態と合い続けます。配るのは各部署、記録するのは情シス、という形のまま誰も転記しないと、台帳だけが古いまま残り、かえって混乱のもとになります。「新しくアカウントを配ったらその場で一行足す」「月に一度、抜き出された候補だけ確認する」といった、触る場面を一つずつ決めておくのが効果的です。こうして流れを一度固めておけば、あとは同じ形で使い回せるのが内製の利点です。社内で作ったツールを長く使い続ける工夫は内製ツールの保守の進め方で解説しています。
まとめ:抜き出しはツールに、止める判断は人に
本記事の要点を整理します。
- アカウントが残る原因は担当者の怠慢ではなく、契約と配布と退職の連絡が分かれたまま束ねて見る場所がないこと
- 作るのは「アカウントの記録→退職者との突合→ライセンス数の差分→権限の点検→棚卸しの記録」の小さなツール
- 用意するのはClaude Code・いま使っているサービスの一覧・各サービスの利用者一覧の3つだけ
- 控える項目はサービス名・利用者・権限の区分・利用状況の四つから始め、各サービスとの自動連携までは作り込まない
- 止めるべき候補の抜き出しはツールに任せ、消してよいかの判断と管理画面での操作は人が持つ
突合と抜き出しはツールに任せ、止める判断は人が持つ——この役割分担を押さえれば、アカウントの管理は「退職者の分が残ったまま気づかない」状態から「毎月きちんと確かめられる」運用へ近づきます。まずは身近な数サービスの利用者一覧を、Claude Code に渡して台帳にするところから始めてみてください。全社でAIやツールの利用を広げるときの権限とルールの設計は生成AI全社導入のガバナンス設計でも紹介しています。研修費用の負担を抑えながら社内に内製できる人を増やす方法は生成AI研修に使える助成金もあわせてご確認ください。
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