建築設計事務所で時間が消えている4か所
建築設計事務所の仕事は、外から見ると「図面を描くこと」が中心に見えます。しかし所長や事務の担当者の時間を食っているのは、設計の腕そのものよりも、契約ごとの記録を抜けなく残し、建築主への説明と書面の段取りを守り、事務所としての登録や届出を切らさないための作業です。所長が一人で営む住宅の設計事務所でも、何人もの建築士が属する組織の事務所でも、共通しているのは次の4か所です。
- 契約ごとの帳簿と図書の保存:契約の日と報酬は契約書に、担当した建築士は社内の割り振りに、業務を終えた日は請求の記録にと別々にあり、帳簿は事業年度の終わりにまとめて書き起こしている
- 重要事項説明と契約の書面:契約の前に誰がどの書面で説明したか、契約の後の書面をいつ交付したかが、案件ごとのフォルダを開かないと分からない
- 事務所登録の更新と管理建築士:登録がいつ有効期間の満了を迎えるか、所属する建築士の出入りや役員の交代を何日以内に届け出るかが、登録の通知の控えを見ないと分からない
- 定期講習と閲覧の書類:所属する建築士の定期講習の期限と、事業年度ごとに作って備え置く書類を、まとめて確かめる仕組みがない
この4つに共通しているのは、どれも設計の技術ではなく「判断の材料が契約書・図面・請求の記録・登録の控えに分かれていて、人が集めて突き合わせている」という構造だという点です。設計の中身を決めるのは建築士がやるとしても、集めて突き合わせるところは道具に任せられます。Claude Codeがどんなツールかをまだご存じない方は、こちらの入門記事から読むと以降の話がつかみやすくなります。施工の側から見た段取りは建設業の内製を扱った記事に、住宅の改修を請け負う側はリフォーム業の内製を扱った記事にもまとめています。
帳簿は契約ごとに行を持ち、図書の保存の期限まで追う
帳簿でいちばん困るのは、契約書と請求の記録は事務所にあるのに、業務を終えた日と、実際に担当した建築士や一部を外に頼んだ相手が案件のフォルダに埋もれ、事業年度の終わりに思い出しながら帳簿を書くことになることです。十年以上前の案件の図面を出してほしいと言われて、どこに保存したかを探し回ることも珍しくありません。
建築士法の第二十四条の四は、建築士事務所の開設者は業務に関する事項を記載した帳簿を備え付けて保存し、業務に関する図書を保存しなければならないとしています。これを受けた建築士法施行規則の第二十一条第一項は、帳簿に記載する事項として、契約の年月日、契約の相手方の氏名または名称、業務の種類とその概要、業務の終了の年月日、報酬の額、業務に従事した建築士と建築設備士の氏名、業務の一部を委託した場合はその概要と受託者の氏名または名称と住所、管理建築士から開設者に意見が述べられたときはその意見の概要を挙げています。第三項は、帳簿を各事業年度の末日をもって閉鎖し、閉鎖した日の翌日から起算して十五年間保存することとしています。第二項は、ファイルなどに記録して必要に応じて紙面に表示できるときは、その記録をもって帳簿への記載に代えられるとしています。
図書については、同じ第二十一条の第四項が、所属する建築士が業務として作成した図書のうち、配置図、各階平面図、二面以上の立面図と断面図、基礎伏図、各階床伏図、小屋伏図、構造詳細図などの設計図書と、構造計算により安全性を確かめた建築物の場合はその構造計算に係る図書、工事監理報告書などを挙げ、第五項は、その図書を作成した日から起算して十五年間保存することとしています。
形としては、一件の契約ごとに一行を持ち、契約の年月日、相手方、業務の種類、業務の終了の年月日、報酬の額、従事した建築士の氏名を、それぞれ別の欄で持ちます。一部を委託した場合の受託者と、管理建築士の意見の概要は別の表に行を足します。図書は契約の行にひもづけて一点ごとに行を持ち、図書の種類、作成した日、保存の場所を持たせます。道具には、次のものを抜き出させられます。
- 業務の終了の年月日はあるのに、従事した建築士や報酬の額の欄が空いている契約:業務を終えた翌週に、担当した建築士の名前と一緒に並べる
- 工事監理を受けた契約なのに、工事監理報告書の作成の日が空いている案件:業務を終えたときに所長へ出す
- 閉鎖した日の翌日や作成した日から数えた保存の期限を過ぎた帳簿と図書:処分してよいかを所長が決められるよう、年に一度まとめて出す
契約書の紙から帳簿の欄を起こす作りはPDFからデータを抜き出すツールの内製手順が、保存の期限を数える作りは書類の保存期限管理ツールの内製手順が近い形です。帳簿の期限は契約ごとではなく事業年度ごとに決まり、図書の期限は図書ごとに決まるので、二つの期限を別の欄で持たせてください。
重要事項説明は、契約の前に書面と説明した建築士を残す
建築主とのやり取りで起きやすいのは、打合せが先に進み、設計を始めてから契約書を交わしたため、契約の前に行うはずの重要事項説明が後回しになる、あるいは説明はしたのに、誰がどの書面でいつ説明したかの控えが残っていないことです。担当する建築士が途中で替わったときに、説明した内容とのずれに気づきにくくなります。
建築士法の第二十四条の七第一項は、建築士事務所の開設者は、設計受託契約や工事監理受託契約を建築主と締結しようとするときは、あらかじめ、管理建築士その他の所属する建築士に、作成する設計図書の種類、工事と設計図書との照合の方法と工事監理の実施の状況の報告の方法、従事する建築士の氏名とその一級・二級・木造の別、報酬の額と支払の時期、契約の解除に関する事項などを記載した書面を交付して説明をさせなければならないとしています。第二項は、説明をするときに建築士の免許証などを提示しなければならないとし、第三項は、建築主の承諾を得て、書面に代えて情報通信の技術を利用する方法で提供できるとしています。契約を結んだあとは、第二十四条の八が、遅滞なく所定の事項を記載した書面を委託者に交付しなければならないとしています。また第二十二条の三の三は、延べ面積が三百平方メートルを超える建築物の新築に係る契約では、当事者が所定の事項を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付しなければならず、その事項を変更するときも同じとしています。
形としては、契約ごとの行に、重要事項説明を行った日、説明した建築士の氏名、免許証を提示したかどうか、書面で交付したか承諾を得て電子で提供したか、契約の日、契約の後の書面を交付した日を、それぞれ別の欄で持たせます。延べ面積が三百平方メートルを超える新築に当たるかどうかの欄と、相互に交付した日、契約の内容を変えたときの変更の書面の日も持たせます。道具には、次のものを出させられます。
- 契約の日が入っているのに、重要事項説明の日が空いている、または契約の日より後になっている契約:契約の日を入れたその日に所長へ出す
- 契約の日から日がたっているのに、契約の後の書面を交付した日が空いている契約:毎週の打合せの前に並べる
- 担当する建築士が説明のときと替わったのに、変更の書面の日が空いている契約:割り振りを変えたその日に出す
契約ごとの日付と書面を並べる作りは契約書の期限管理ツールの内製手順が近い形です。説明の書面そのものの文面や、どの事項をどう書くかは、所長と管理建築士が決めて、道具には日付と担当者の抜けを見張らせてください。
事務所登録の更新と管理建築士は、事務所ごとに見張る
毎日の案件とは別に、事務所としての登録と、事務所に置く管理建築士も見落としやすい場所です。登録は事務所の所在地を管轄する都道府県知事から受けるため、複数の事務所を持つ会社ほど、更新の時期や届出の窓口がばらばらになります。
建築士法の第二十三条は、他人の求めに応じ報酬を得て設計や工事監理などを業として行おうとするときは、建築士事務所を定めて都道府県知事の登録を受けなければならないとし、登録の有効期間は登録の日から起算して五年、満了後も続けるときは更新の登録を受けなければならないとしています。第二十三条の五は、事務所の名称と所在地、開設者や役員の氏名、管理建築士の氏名などに変更があったときは二週間以内に、所属する建築士の氏名などに変更があったときは三月以内に、都道府県知事に届け出なければならないとしています。第二十三条の六は、事業年度ごとに設計等の業務に関する報告書を作成し、毎事業年度経過後三月以内に提出しなければならないとし、第二十三条の七は、業務を廃止したときなどは三十日以内に届け出ることとしています。第二十四条は、事務所ごとに事務所を管理する専任の建築士を置かなければならないとし、その管理建築士は、建築士として三年以上の設計などの業務に従事したあと、登録講習機関が行う講習の課程を修了した建築士でなければならないとしています。
形としては、事務所ごとに一行を持ち、登録の日、登録の有効期間の満了の日、更新の申請をした日、管理建築士の氏名、管理建築士講習を修了した日を、それぞれ別の欄で持ちます。管理建築士が替わったときは行を書き換えず、前の人の行を残したまま新しい行を足します。役員の交代や所属する建築士の入退所も、変更のあった日と届け出た日を別の表に残します。道具には、次のものを出させられます。
- 登録の有効期間の満了の日が近いのに、更新の申請をした日が空いている事務所:満了の日の数か月前から、月に一度所長へ並べる
- 建築士の入退所や役員の交代があったのに、届け出た日が空いている事務所:変更のあった日から数えて、二週間と三月の期限の近い順に出す
- 事業年度が終わったのに、業務に関する報告書を提出した日が空いている事務所:事業年度の末日の翌月から毎月出す
事務所ごとの登録の更新を見張る作りは許認可・免許の更新期限管理ツールの形でそのまま使えます。登録の有効期間の満了の日は、都道府県から受け取った登録の通知や更新の案内で人が確かめて入力してください。
定期講習と閲覧の書類は、建築士ごと・事業年度ごとに並べる
最後は、所属する建築士ごとの確認です。入所したときには受けていた定期講習が、何年かたって期限を迎えていたり、建築主の求めに応じて見せる書類が前の事業年度のまま更新されていなかったりすることは、案件に追われるほど起きやすくなります。
建築士法の第二十二条の二は、建築士事務所に属する一級建築士、二級建築士、木造建築士と、構造設計一級建築士、設備設計一級建築士は、三年以上五年以内において国土交通省令で定める期間ごとに、登録講習機関が行う講習を受けなければならないとしています。施行規則の第十七条の三十六は、その期間を、直近の講習を受けた日の属する年度の翌年度の開始の日から起算して三年としています。また建築士法の第二十四条の六は、事務所の業務の実績や所属する建築士の氏名と業務の実績などを記載した書類を事務所に備え置き、設計などを委託しようとする者の求めに応じて閲覧させなければならないとし、施行規則の第二十二条の二は、その書類に、所属する建築士の登録番号と直近の定期講習を受けた年月日、管理建築士である旨などを記載し、事業年度ごとに事業年度経過後三月以内に作成し、備え置いた日から起算して三年を経過する日までの間、事務所に備え置くこととしています。
形としては、建築士ごとに一行を持ち、一級・二級・木造の別、登録番号、入所した日、直近の定期講習を受けた日、構造設計や設備設計の一級建築士であればその講習を受けた日を、それぞれ別の欄で持ちます。閲覧の書類は事業年度ごとに一行を持ち、作成した日と備え置いた日を持たせます。道具には、次のものを出させられます。
- 直近の講習を受けた日から数えた期限が近い建築士:講習の申込みの時期に合わせ、期限の近い順に並べる
- 直近の講習を受けた日が空いている、入所したばかりの建築士:入所の手続きをしたその週に所長へ出す
- 事業年度が終わったのに、閲覧の書類を作成した日が空いている事務所:業務に関する報告書と同じ時期に並べる
講習の受講の日を人ごとに並べる作りは研修・資格の受講記録管理ツールの内製手順が近い形です。初めて講習を受ける人の期限は、試験に合格した時期や事務所に所属した時期によって決まり方が変わるため、一人ひとりの期限は講習の案内で人が確かめて入力してください。
機械に渡してはいけない判断の線引き
建築設計事務所には、ツールに渡してはいけない部分がはっきりあります。導入の前にここを決めておかないと、あとで大きな手戻りになります。
第一に、設計の内容と法令への適合の判断です。建築士法の第二十四条第三項は、管理建築士が、受託できる業務の量と難易、担当させる建築士の選定と配置、提携先に行わせる業務の範囲、所属する建築士の監督などの技術的事項を総括するとしています。設計が建築基準法令に合っているか、どの建築士に任せるかを決めるのは建築士の仕事です。道具は記録の抜けを出すところまでにして、図面や計算の合否を決める作りにはしないでください。
第二に、契約の区分への当てはめです。ある契約が延べ面積三百平方メートルを超える新築に当たるか、増築や大規模の修繕でその部分を新築とみなすかは、建築物の内容を見て決める判断です。道具には所長や管理建築士が決めた区分を入れ、区分そのものを決めさせる作りにはしないでください。
第三に、報酬と契約の取り決め、都道府県ごとの手続きの中身です。報酬の額や契約の解除の取り決めは建築主との合意で決まり、登録の更新や変更の届出にどの書類が要るかは、都道府県や指定事務所登録機関の案内で変わります。道具に期限を見張らせるのはよくても、取り決めと手続きの中身は人が確かめて決めてください。
第四に、建築主と建築士の情報の扱いです。帳簿には建築主の氏名と報酬の額が、図書には住まいの間取りが、名簿には建築士の登録番号が並びます。どれも外に出てはいけない情報の代表です。試作の段階では実在する建築主や建築士の情報を使わず、形だけ同じにしたダミーのデータで動かしてください。生成AIに何を入力してはいけないかの整理は生成AIに入力してはいけない情報の一覧に、漏えいを防ぐ社内ルールの作り方は情報漏えいを防ぐ社内ルールの作り方にまとめています。
所長や事務の担当者が自分で作り始める進め方
「作れると言われても、プログラムを書いたことがない」という方がほとんどだと思います。実際のところ、いま非エンジニアが最初に越えるべきなのはプログラミングの壁ではなく、自分の困りごとを言葉で正確に説明するという壁です。Claude Codeのようなツールは、日本語で「契約の日が入っているのに、重要事項説明の日が空いている契約を、その日のうちに並べたい」と伝えれば、その通りに動くものを組み立ててくれます。
進め方としては、次の順番をおすすめしています。
- 契約ごとの表を最初に作る:最初の相談の日と建築主を軸に、重要事項説明、契約、設計、確認申請、工事監理、業務の終了、図書の保存までを一つの流れにそろえる。以降の抜き出しはすべてここから出す
- いま使っている記録をそのまま材料にする:契約書、説明の書面の控え、請求の記録、図面の一覧、登録の通知は、形式がばらばらのまま読ませる。建築士に新しい入力の型を押しつけない
- 抜けているものを出すところまでにする:作ったその日から効くのは「業務の終了の日があるのに、従事した建築士の欄が空いている契約を並べる」といった機能です。設計の内容や契約の区分の判断の方向には広げない
- 本番の情報を入れる前に線引きを決める:試作はダミーのデータで動かし、実際の建築主や建築士の情報を通すのは、扱いの決まりを文書にしてからにする
- 動いたら所長と建築士に見せて、次を決める:机上で仕様を固めるより、動くものを1つ見せたほうが「事業年度の終わりに、帳簿の閉鎖と報告書と閲覧の書類をまとめて確かめたい」という次の要望が具体的に出てきます
この進め方を、自社の実際の業務を題材にして数日で一巡させるのが、AI CODEMYの研修の中身です。研修としての実施には人材開発支援助成金が使える場合があります。制度の要件や助成の内容は改正されることがあるため、生成AI研修に使える助成金の解説記事とIT導入補助金と研修の関係を確認のうえ、最新の情報は必ず所管の窓口でご確認ください。
まとめ:契約から図書の保存までを道具に追わせる
本記事の要点を整理します。
- 建築設計事務所で時間を食っているのは、契約ごとの帳簿と図書の保存、重要事項説明と契約の書面、事務所登録の更新と管理建築士、定期講習と閲覧の書類という4か所
- 帳簿は契約ごとに契約の日、相手方、業務の終了の日、報酬、従事した建築士、委託先を持ち、事業年度で閉じた日から数えた保存の期限と、図書ごとの作成の日から数えた保存の期限を別に追う
- 重要事項説明は、契約の前に説明した日と建築士、免許証の提示、書面の交付を残し、契約の後の書面と変更の書面の日まで並べる
- 事務所ごとに登録の有効期間の満了の日、管理建築士、変更の届出と業務に関する報告書の期限を並べる
- 所属する建築士ごとに直近の定期講習の日を、事業年度ごとに閲覧の書類を作った日を並べる
- 設計の内容と法令への適合、契約の区分の当てはめ、報酬と手続きの中身、建築主と建築士の情報の判断は、道具を入れても人の手元に残す
建築設計は、建築主の思いを形にする建築士の仕事でありながら、契約ごとの記録と説明の段取りを毎日くり返す業種です。そして、その記録と段取りを見張る道具をいちばんうまく作れるのは、どの案件の書面が遅れやすく、どの届出で期限を落としやすいかを知っている所長や事務の担当者自身です。大きな業務管理のシステムの入れ替えを待つより、自分たちで小さく作って育てるほうが速く、そして安く済む段階に来ています。
自社の業務を題材に、5日で内製できるチームへ
AI CODEMY は、5日間で社員が自分の業務課題を解決するツールを完成させる法人向け実践研修です。帳簿の書き漏れと図書の保存の期限の抜き出し、重要事項説明と契約の書面の突き合わせ、事務所登録の更新と管理建築士の管理、定期講習の期限の一覧など、御社の実務をそのまま題材にハンズオンで進めます。まずは無料相談でお気軽にご相談ください。
無料相談(30分)本記事の業務の切り分けは、都道府県知事の登録を受けて住宅や店舗、事務所などの設計と工事監理を請け負う一般的な建築設計事務所の、相談から契約、設計、工事監理、図書の保存までの業務の流れをもとにした整理です。本文中の規定は、e-Gov法令検索に掲載されている建築士法の第二十二条の二、第二十二条の三の三、第二十三条、第二十三条の五、第二十三条の六、第二十三条の七、第二十四条、第二十四条の四、第二十四条の六、第二十四条の七、第二十四条の八と、建築士法施行規則の第十七条の三十六、第二十一条、第二十二条の二を、2026年10月20日に確認しています。自社の契約がどの区分に当たるか、どの書類や手続きが要るか、登録の更新や講習の時期は、都道府県や事務所、建築士ごとの状況によって異なります。自社への当てはめは、登録を受けた都道府県や指定事務所登録機関の窓口、専門家にご確認ください。制度の内容は改正されることがあります。助成金の要件・助成率も同様です。



