なぜ製造業こそ「使う」より「作る」なのか
製造業の現場で生成AIを使う、と聞いてまず思い浮かぶのは、チャットに作業の内容を貼り付けて報告文のたたき台をつくってもらう使い方でしょう。それも役に立ちますが、毎回チャットに貼り付けて、出てきた結果を手で表や日報に戻して——という手間が残り、在庫管理や検査記録の流れそのものは変わりません。
本記事の主語は「使う」ではなく「作る」です。部品や材料の在庫が基準を割ったら知らせる、検査の測定値を決まった様式で記録して逸脱を拾う、その日の生産数と稼働状況から工程日報を組み立てる、といった決まった作業を、毎回手で頼むのではなく現場の小さなツールにしてしまう。すると、その作業は決まった操作ひとつで終わるようになります。製造業の業務は「良否や段取りの最終判断は人が担うが、その周りの集計・記録の手間が大きい」という構造をしているため、判断はそのまま人が担い、手間だけをツールに寄せる余地が特に大きいのです。
ここで鍵になるのがClaude Codeです。Claude Codeは、やりたいことを日本語で伝えると、プログラムの作成から実行までを対話で進めてくれるAIで、コードを一行も書かなくても、対話だけで動くツールを組み立てられます。だからこそ、現場の段取りをいちばん分かっている担当者自身が作り手になれます。外注してシステムに仕様を伝えるより、現場の言葉でそのまま作るほうが、自社の品目や工程の特性に合った道具ができあがります。製造業全体でのAIの使いどころは製造業のClaude Code活用を俯瞰する記事でも整理しているので、本記事の「作り方ハンズオン」とあわせてご覧ください。会社としてツールを内製する考え方の全体像はAIの内製化を進める記事でも扱っています。
ツール化しやすい製造業の業務
製造業の現場で、非エンジニアがツール化しやすい業務には次のようなものがあります。いずれも「判断は人がするが、集計・記録の手間が大きい」作業です。
- 在庫アラート:部品や材料の在庫数を読み取り、基準を割った品目を一覧で知らせる。発注の可否は担当者が判断し、機械は欠品しかけを見つける下ごしらえを担います。
- 検査記録の整理:測定値を決まった様式にまとめ、規格の範囲を外れた値に印を付ける。良否の最終判定は検査員が行い、機械は転記と拾い出しの手間を減らします。
- 工程日報の作成:その日の生産数・稼働時間・段取り替えなどのメモから、決まった様式の日報を組み立てる。手で埋めていた終業前の記入を軽くします。
- 不良・停止の記録集計:発生した不良や設備停止の記録を項目ごとに数え直し、傾向を一覧にする。原因の分析と対策は人が担い、機械は数えて並べる作業を受け持ちます。
共通するのは、「様式や項目は決まっているのに、毎回そろえ直す・数え直す手間がかかる」点です。こうした定型作業はClaude Codeでの自動化がよく効く領域です。在庫の欠品を知らせるしくみは専用に作り込むこともでき、その作り方は在庫アラートを作る手順で、毎日の記録をまとめる日報は日報ツールを作る手順で詳しく解説しています。
5日で内製する進め方
「現場の担当者がツールを作る」と言われても、想像しづらいかもしれません。実際の進め方は、おおむね次の5日間の流れになります。これはAI CODEMYの研修で受講者が自分の業務ツールを完成させるときの組み立て方そのものです。
1日目:自分の困りごとを言葉にする。「どの集計や記録に、いつも何分とられているか」を棚卸しし、ツールにしたい1本を決めます。たとえば「毎朝、部品の在庫表を見て基準を割った品目を目で探し、発注リストを手で書き出すのに時間がかかる」。ここで問われるのはプログラミングの知識ではなく、自分の業務を言葉にする力です。
2日目:ダミーデータを用意して、たたき台を作る。取引先名や図番といった機微な情報はそのまま使わず、まずは差し替えたダミーの在庫表や検査データを用意します。そのうえでClaude Codeに作りたいものを伝え、最初の動くたたき台を出させます。一度で完璧を狙わず、動かしながら直す前提です。
3日目:自社の様式に合わせて直す。ダミーで動かし、「この品目区分でまとめて」「日報の並び順は当社の書式に合わせて」と日本語で調整します。やり取りを繰り返して、自分の会社の作法にツールを寄せていきます。
4日目:同僚に見てもらい、運用の形を決める。同じ業務をする現場の同僚に試してもらい、誰がいつ使うか、出力をどこに保存するかといった運用の段取りを固めます。ツールが出した一覧を人がどう確認してから使うかも、ここで決めます。
5日目:ルールを確認して、本番運用へ。実データを扱う前に、会社の情報の取り扱いルール(クラウドに何を送ってよいか)を必ず確認し、扱う範囲を決めたうえで日々の業務に組み込みます。非エンジニアが最初の1本を組み立てる全体の進め方はClaude Codeで業務ツールを作る5ステップで詳しく解説しています。
指示の具体例
2日目にClaude Codeへ出す指示は、たとえば次のようなものです。在庫アラートのツールを想定しています。
「このフォルダにある在庫表(CSV)を読み込んで、在庫数が発注点を下回った品目だけを一覧にしてほしい。列は『品番・品名・現在庫・発注点・不足数』の順に並べて。発注点は在庫表の列にある値を使い、勝手に決めないこと。判断に必要な情報が欠けている行は、除外せず『要確認』と印を付けて残して。表にない数量を推測で補わないこと」
このように、「何を読み取り」「どんな形に整え」「やってはいけないこと(数量を推測で補わない・基準を勝手に決めない)」まで具体的に書くのがコツです。あいまいな指示ほど結果がぶれます。逆に、ここを丁寧に言葉にできれば、自社の品目区分や記録の作法をそのままツールに落とし込めます。特に製造業では「表にない数量を補完しない」「良否や発注の判断は要確認として人に返す」という指示が重要で、AIが在庫や品質の判定まで断定してしまうと現場の責任の所在があいまいになるため、補完と断定を禁じる一文を必ず添えます。指示の組み立て方そのものは業務で使えるプロンプトの書き方が参考になります。
品質記録・情報管理の注意点
製造業でツールを使ううえで、丁寧に押さえたい注意点があります。
第一に、取引先や図面にまつわる情報はそのままクラウドに送らない。取引先名・図番・単価・製造条件といった情報は、慎重に扱うべき営業秘密になりえます。ツールを作る段階ではダミーデータだけを使い、本番でも何をクラウドのAIに送ってよいかは必ず会社のルールに従います。判断に迷う情報は入力しないのが安全です。AIに入れてはいけない情報の具体的な考え方は生成AIに入力してはいけない情報リストにまとめています。
第二に、良否の判定や検査そのものはツールに任せない。製品の合否や安全にかかわる判断は、責任を負う検査員・技術者が行うもので、AIが置き換えるものではありません。ツールにできるのは測定値を様式にそろえる、規格外の値に印を付ける、日報の下書きを組み立てるまでで、その先の判定・是正・出荷可否は必ず人が行います。ツールが出した一覧や集計はあくまで下書きであり、値が正しいか、記録が事実と合っているかの最終確認は担当者が行う前提で運用します。品質記録は後から追跡できることが求められるため、ツールで作った記録も元データと突き合わせられる形で残します。
第三に、情報漏えいを起こさない仕組みを先に決める。「どのツールに何を入力してよいか」を担当者任せにすると、思わぬ持ち出しが起こりえます。入力してよい情報の範囲や、使ってよいツールをあらかじめ会社で定めておく必要があります。組織として情報漏えいを防ぐ進め方は生成AIの情報漏えいを防ぐ記事で詳しく解説しています。取引先の機密や図面を多く扱う製造業だからこそ、便利さより先に「入れてよい情報の線引き」を決めるのが出発点です。
研修・助成金で始める
「会社がツールを内製する」と言っても、最初のきっかけは独学では作りにくいものです。AI CODEMYは、5日間で受講者が自分の業務課題を解決するツールを完成させる法人向け実践研修で、製造業のように特定の帳票・記録を題材にした研修も可能です。現場の帳票を内製する近い事例としては運送会社が配車表や運送日報を内製するハンズオンもあわせてご覧ください。5日で内製した本番ツールの実物イメージは研修の成果物をまとめた記事で紹介しています。
費用面では、人材育成や業務改善を対象とした国の助成金を活用できる場合があります。どの制度がいくらの助成率で使えるかは、対象の要件や年度によって変わるため、厚生労働省などの公表資料を要確認です。AI CODEMYでは活用しやすい制度の整理から相談に乗っています。AI研修に使える助成金の解説に概要をまとめているので、まずはこちらをご覧ください。
まとめ:集計・記録の手間を自社の道具に変える
本記事の要点を整理します。
- 製造業の生成AI活用は「使う」だけでなく、現場担当自身が在庫アラート・検査記録・工程日報のツールを「作る」段階まで広がる
- ツール化しやすいのは、在庫の欠品検知・検査記録の整理・日報の作成など、判断は人がするが集計・記録の手間が大きい作業
- 困りごとを言葉にし、ダミーデータで作り、動かしながら自社の様式に合わせていく5日間の進め方で本番運用に届く
- 取引先や図面の情報は入力範囲を会社で定め、良否の判定と発注・是正の判断は必ず人が行う
集計と記録の手間のツール化は、製造業の会社がモノづくりそのものに向き合う時間を取り戻す、効果の見えやすい一歩です。ツールに「整える手間」を任せ、人は判断と改善に集中する——それが、製造業に無理のない生成AI活用の形です。
製造現場の集計・記録作業を自分たちで自動化したい方へ
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