なぜ「使う」より「作る」なのか
生成AIを介護・福祉で使う、と聞いてまず思い浮かぶのは、チャットに質問して文章を整えてもらう使い方でしょう。それも有用ですが、毎回チャットに貼り付けて、出てきた文章を手で戻して——という手間が残り、業務の流れそのものは変わりません。
本記事の主語は「使う」ではなく「作る」です。記録の下書きを整える、申し送りを要約する、加算書類の体裁をそろえる、といった決まった作業を、毎回手で頼むのではなく自分たちの小さなツールにしてしまう。すると、その作業はボタンひとつ、あるいは決まった操作ひとつで終わるようになります。
ここで鍵になるのがClaude Codeです。Claude Codeは、やりたいことを日本語で伝えると、プログラムの作成から実行までを対話で進めてくれるAIで、コードを一行も書かなくても、対話だけで動くツールを組み立てられます。だからこそ、現場の業務をいちばん分かっている職員自身が作り手になれます。外注して仕様を伝えるより、現場の言葉でそのまま作るほうが、介護・福祉の細かな実情に合った道具ができあがります。社内でツールを内製する考え方の全体像はAIの内製化を進める記事でも整理しています。
ツール化できる文書作業
介護・福祉の現場で、職員がツール化しやすい文書作業には次のようなものがあります。いずれも「判断は人がするが、整える手間が大きい」業務です。
- 記録の下書き整形:箇条書きで書き留めた様子のメモを、施設の書式に沿った記録の文章にそろえる。誤字や表記ゆれの統一もあわせて行います。
- 申し送りの要約:複数の記録やメモから、次のシフトに引き継ぐべき要点だけを短くまとめる。長い記録の中から「伝えるべきこと」を拾う作業を補助します。
- 加算・各種書類の体裁チェック:必要な項目が埋まっているか、決められた様式の見出しがそろっているかを照らし合わせ、抜けを一覧で出す。
- 会議・カンファレンスの議事メモ整理:話した内容のメモを、決定事項・宿題・担当に分けて見やすく整える。
共通するのは、「ルールや書式は決まっているのに、毎回そろえ直す手間がかかる」点です。こうした定型の文書作業は、Claude Codeでの自動化がよく効く領域です。会議メモの整理は専用に作り込むこともでき、その作り方は議事録作成ツールを作る手順で詳しく解説しています。どの業種でどんな使い道があるかを俯瞰したい場合は業種別のAI活用事例もあわせてご覧ください。
職員が5日で内製する進め方
「現場の職員がツールを作る」と言われても、想像しづらいかもしれません。実際の進め方は、おおむね次の5日間の流れになります。これはAI CODEMYの研修で社員が自分の業務ツールを完成させるときの組み立て方そのものです。
1日目:自分の困りごとを言葉にする。「どの作業に、いつも何分とられているか」を棚卸しし、ツールにしたい1本を決めます。たとえば「夜勤明けの申し送りメモを毎回まとめ直すのに時間がかかる」。ここで問われるのはプログラミングの知識ではなく、自分の業務を言葉にする力です。
2日目:ダミーデータを用意して、たたき台を作る。本物の利用者情報は使わず、まずは入力も出力も差し替えたダミーのメモを用意します。そのうえでClaude Codeに作りたいものを伝え、最初の動くたたき台を出させます。一度で完璧を狙わず、動かしながら直す前提です。
3日目:現場の基準に合わせて直す。ダミーで動かし、「この項目も入れて」「この言い回しは施設の書式に変えて」と日本語で調整します。やり取りを繰り返して、自分の現場の基準にツールを寄せていきます。
4日目:同僚に見てもらい、運用の形を決める。同じ業務をする同僚に試してもらい、誰がいつ使うか、出力をどこに保存するかといった運用の段取りを固めます。
5日目:ルールを確認して、本番運用へ。実データを扱う前に、施設の情報の取り扱いルール(クラウドに何を送ってよいか)を必ず確認し、扱う範囲を決めたうえで日々の業務に組み込みます。非エンジニアが最初の1本を組み立てる全体の進め方はClaude Codeで業務ツールを作る5ステップで詳しく解説しています。
指示の具体例
2日目にClaude Codeへ出す指示は、たとえば次のようなものです。申し送りメモを要約・整形するツールを想定しています。
「このフォルダにある、夜勤中に書き留めたメモ(テキスト)を読み込んで、次のシフトに引き継ぐ申し送りの文章に整えてほしい。出力は『利用者ごと』に分け、各人について『食事・排泄・睡眠・気になった様子・対応したこと』の見出しでまとめて。事実として書かれていないことは補わず、メモにない項目は『記載なし』と書く。最後に、特に注意して見てほしい人を3行以内で先頭にまとめて」
このように、「何を読み取り」「どんな形に整え」「やってはいけないこと(事実を補わない)」まで具体的に書くのがコツです。あいまいな指示ほど結果がぶれます。逆に、ここを丁寧に言葉にできれば、現場の引き継ぎの作法をそのままツールに落とし込めます。特に介護・福祉では「事実にない情報を足さない」という指示が重要で、AIが補ってしまうと記録の信頼性を損なうため、補完を禁じる一文を必ず添えます。指示の組み立て方そのものは業務で使えるプロンプトの書き方が参考になります。
個人情報と制度面の注意点
介護・福祉でツールを使ううえで、ほかの業種以上に丁寧に押さえたい注意点があります。
第一に、実データはいきなり扱わない。利用者の氏名・心身の状況・家族の情報などは、慎重に扱うべき個人情報です。ツールを作る段階ではダミーデータだけを使い、本番でも何をクラウドのAIに送ってよいかは必ず施設のルールに従います。判断に迷う情報は入力しないのが安全です。AIに入れてはいけない情報の具体的な考え方は生成AIに入力してはいけない情報リストにまとめています。医療・福祉領域での生成AIの扱いの注意点は医療現場でClaude Codeを使う際の記事でも整理しているので、あわせてご確認ください。
第二に、情報漏えいを起こさない仕組みを先に決める。「どのツールに何を入力してよいか」を職員任せにすると、思わぬ持ち出しが起こりえます。入力してよい情報の範囲や、使ってよいツールをあらかじめ施設で定めておく必要があります。組織として情報漏えいを防ぐ進め方は生成AIの情報漏えいを防ぐ記事で詳しく解説しています。
第三に、記録・加算の最終責任は人が持つ。ツールが整えた文章はあくまで下書きであり、内容が事実と合っているか、必要な項目を満たしているかの最終確認は人が行います。特に加算の根拠書類など制度に関わる文書は、要件の解釈を誤ると返戻や指導につながりかねません。加算の要件や様式名といった制度の数値・名称は、厚生労働省の公表資料を要確認とし、本記事の手順だけで判断しないでください。ツールの役割は、確認すべき手間を減らすところまでです。
研修・助成金で始める
「職員がツールを内製する」と言っても、最初のきっかけは独学では作りにくいものです。AI CODEMYは、5日間で社員が自分の業務課題を解決するツールを完成させる法人向け実践研修で、介護・福祉のように特定の現場業務を題材にした研修も可能です。
費用面では、人材育成や業務改善を対象とした国の助成金を活用できる場合があります。どの制度がいくらの助成率で使えるかは、対象の要件や年度によって変わるため、厚生労働省などの公表資料を要確認です。AI CODEMYでは活用しやすい制度の整理から相談に乗っています。AI研修に使える助成金の解説に概要をまとめているので、まずはこちらをご覧ください。
まとめ:文書作業を職員自身の道具に変える
本記事の要点を整理します。
- 介護・福祉の生成AI活用は「使う」だけでなく、職員自身が記録・申し送り・書類のツールを「作る」段階まで広がる
- ツール化しやすいのは、記録の整形・申し送りの要約・加算書類の体裁チェックなど、判断は人がするが整える手間が大きい作業
- 困りごとを言葉にし、ダミーデータで作り、動かしながら現場の基準に合わせていく5日間の進め方で本番運用に届く
- 実データは扱わずに作り、入力範囲を施設で定め、記録・加算の最終確認と制度の要件確認は必ず人が行う
文書作業のツール化は、介護・福祉の職員が利用者に向き合う時間を取り戻す、効果の見えやすい一歩です。ツールに「整える手間」を任せ、人は判断とケアに集中する——それが、現場に無理のない生成AI活用の形です。
介護・福祉の文書作業を自分たちで自動化したい方へ
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