AI推進担当者の立ち上げガイド|1人から始める社内AI化

1人のAI推進担当者が社内に活用の輪を広げていくイラスト

「AIの推進、君に任せた」——ある日突然そう言われて、兼任のAI推進担当者になった。何から手をつければいいのか分からない。そんな方のための記事です。結論から言うと、最初の90日でやるべきことは「現状把握→ルールの最低限整備→小さな成功事例を1つ→共有と仲間づくり」の4つだけです。立派な戦略資料も、全社展開計画も、最初は要りません。本記事では、兼任1人でも回る最初の90日の進め方と、推進担当者が最も陥りやすい「孤立」を防ぐコツ、経営を巻き込む言い方まで、実践的に解説します。

AI推進担当者の最初の90日 4ステップ
図:AI推進担当者の最初の90日 4ステップ

AI推進担当者の役割を正しく捉える

まず最初に、役割の定義を間違えないことが大切です。AI推進担当者の仕事は「社内で一番AIに詳しい人になること」ではありません。「社内のみんながAIを使えるようになる環境を整えること」です。この違いは決定的です。

前者だと捉えると、ツールの勉強に時間を溶かし、「詳しい人に聞けばいい」という構図を作ってしまい、自分がボトルネックになります。後者だと捉えれば、やるべきことは情報収集よりも、現場の困りごとを知り、使える環境とルールを整え、できる人を増やすことだと分かります。技術の専門家である必要はありません。社内の人と業務を知っていることのほうが、はるかに重要な資格です。だからこそ、兼任1人でも始められるのです。

最初の30日|現状把握:誰が何に困っているか

最初の1ヶ月は、ツール選定でも研修企画でもなく、現状把握に使います。具体的には、各部門の人に「いま一番時間を取られている作業は何ですか」「繰り返しでうんざりする仕事はありますか」と聞いて回るだけです。15分の立ち話で構いません。10人も聞けば、社内の「面倒な仕事の地図」ができあがります。

あわせて、すでにAIをこっそり使っている人を探してください。どんな会社にも、個人的にChatGPTなどを使いこなしている「隠れ活用者」が必ずいます。その人たちは後で最初の仲間になってくれる存在です。

このヒアリングには、もうひとつ大きな効果があります。「AI推進」が現場にとって「自分の困りごとを聞いてくれる活動」として始まることです。上から降ってきた施策ではなく、現場の味方としてスタートできるかどうかが、後々の広がりを左右します。

31〜60日|最低限のルールと小さな成功事例

2ヶ月目にやることは2つです。1つ目は、ルールの最低限整備。完璧なガイドラインは要りません。「入力してはいけない情報」「困ったときの相談先」の2点が決まっていれば、まず動き出せます。詳しい作り方は生成AI社内ルールの作り方を参考に、A4一枚から始めてください。ルールがないままだと、慎重な人は使えず、活用が個人の判断任せになってしまいます。

2つ目は、小さな成功事例を1つ作ることです。1ヶ月目のヒアリングで見つけた困りごとの中から、「効果が分かりやすく、関係者が少なく、失敗しても痛くない」ものを1つ選び、AIで解決してみせます。議事録の要約、定型メールの下書き、データの転記チェックなど、地味なもので構いません。大事なのは、「あの作業が楽になった」と本人の口から語ってもらえる実例を作ることです。研修の現場でも、推進がうまくいっている会社に共通するのは、立派な計画ではなく「最初の1つの実例」を早く作っていることです。

61〜90日|共有と仲間づくり

3ヶ月目は、作った事例を社内に見せて回り、仲間を増やすフェーズです。やることはシンプルで、(1) 成功事例を朝礼や社内チャットで共有する、(2) 「自分の業務でもやってみたい」と手を挙げた人を集めて小さな勉強会を開く、(3) 隠れ活用者に声をかけて知見を持ち寄ってもらう、の3つです。

ポイントは、共有のときに「すごい技術」としてではなく「楽になった話」として語ることです。人は技術には警戒しますが、「あの面倒な作業から解放された」という話には身を乗り出します。事例の主役は、AIではなく業務が楽になった本人です。

90日が終わる頃には、「困りごとの地図」「最低限のルール」「実例1つ」「関心を持つ仲間数名」が手元に揃っているはずです。これが、全社展開という次のフェーズへの土台になります。その先の道のりは生成AIの全社導入ロードマップで、仲間を「作り手」に育てる方法は生成AIで進めるAI人材育成で詳しく解説しています。

孤立しないコツと経営の巻き込み方

推進担当者の最大の敵は、技術でも予算でもなく「孤立」です。1人で抱え込んだ担当者が異動や多忙で止まると、活動ごと消えます。孤立を防ぐコツは3つあります。

  • 完璧を目指さない:100点のガイドラインや計画を1人で作ろうとしない。60点で出して、周りに直してもらうほうが、結果的に質も協力も得られます。
  • 「相談される側」ではなく「相談する側」に回る:情シス・法務・現場のキーパーソンに、早い段階から「教えてください」と頼ってしまう。頼られた人は味方になります。
  • 定例の報告先を確保する:月1回でも、経営層への報告の場を決めておく。報告の場があるだけで、活動は止まりにくくなります。

経営を巻き込む言い方にもコツがあります。「AIを推進すべきです」という抽象論ではなく、「経理のあの作業、AIで週数時間分減らせそうです。1部署だけ試させてください」と、具体的な業務と小さな許可をセットで求めることです。経営層が判断しやすい粒度に落とすのが、巻き込みの本質です。そして成功事例ができたら、必ず数字(削減時間など)とともに報告してください。次の予算と権限は、その実績についてきます。

まとめ:90日で「土台」を作れば、1人からでも変えられる

本記事の要点を整理します。

  • 推進担当者の役割は「一番詳しい人」ではなく「みんなが使える環境を整える人」
  • 最初の30日は現状把握。誰が何に困っているかを聞いて回る
  • 60日目までにA4一枚のルールと、小さな成功事例を1つ作る
  • 90日目までに事例を共有し、勉強会と隠れ活用者で仲間を増やす
  • 孤立を防ぐ鍵は、完璧を目指さず、頼り、経営への報告の場を持つこと

社内AI化は、大きな号令ではなく、1人の担当者の最初の90日から始まります。まずは明日、誰か1人に「一番面倒な作業は何ですか」と聞くところから始めてみてください。

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執筆:AI CODEMY 編集部 / 最終更新:2026年5月5日